今回のテーマ

地域防災

開催日時:平成30年8月31日
開催場所:ジョンブルプライベートラボ

【話し手】
澤井御南学区連合町内会長「今回の大雨災害の被害状況」
田中大元学区連合町内会長「これからの暮らしに必要なこと」
マット・ビボウ(シティ・リペア/アメリカ)「ポートランドの取組み」

【聞き手】
枝廣淳子(環境ジャーナリスト)

【進行】
青江整一(くらしのたね/ミナモト建築工房代表)

●青江/「くらしのたねまきシンポジウム」では、「地域防災」を第1回目のテーマに挙げさせていただきました。先月7月に、安心・安全と言われてきた岡山でも大雨災害がありました。たくさんの方がお亡くなりになり、また今でもたいへんな思いで復興活動をされている方々がおられます。まずは謹んでお見舞い申し上げたいと思います。

僕たちミナモト建築工房は、家を建てる会社です。実は今回災害の起きた真備で、お家を引き渡して1週間後に災害に遭ったお客様がおられます。みなさんとてもショックを受けられていましたけれど、たくましく復興活動をされておられまして、僕らもお手伝いに行ってるんですけど、逆に勇気を分けてもらったりだとか、そういったことがあります。

また今回、僕たちの住む町においても、少なからず豪雨災害を受けたところがありました。そのあたりのお話を地域の町内会長さんから聞きながら、それを皮切りに、みなさんといろいろ話し合っていきたいと思っております。

今日は行政の方も何名か来られてるんですが、これから北長瀬駅界隈の再開発が進んでいきまして、商業施設や総合公園、市営住宅などができていく予定です。また、北長瀬から半径1キロを「西部新拠点」というかたちで、岡山駅に代わる新しい拠点にしていこうという動きもあります。

さらに半径2キロにわたっては「地域防災拠点」というかたちで、総合公園を中心として地域の防災拠点となるような仕組みをこれからつくっていこうという政策も聞いております。

では我々市民はそこで何をしたらいいか。行政が頑張ってくれているのをただ見ていくだけではなくて、自分たちも何かできることはないかな、ということをこういった場所でみなさんと話しあって、岡山市の方々に提案していけないか、市と協働して何かできることがないか、という思いでこの会を始めました。

今後、来年の3月までに何回かテーマを決めて話し合いをしながら、そういったことをやっていこうと思いますので、よろしくお願いします。

【登壇者の紹介】

今日のゲストを紹介させていただきます。まず環境ジャーナリストの枝廣淳子さん。東京からお越しいただきました。環境のエキスパートであり、そしてまちづくりという点においても、北海道の下川町、島根県の海士町といった行政と一緒にまちづくりに関わっておられます。また、経済産業省・資源エネルギー庁の「エネルギー情勢懇談会」の委員としても活躍されています。

今回、シンポジウム全体を通して、ファシリテート、聞き手役というかたちでご協力いただけることになりました。よろしくお願いいたします。

まず最初に、この近くの御南学区の連合町内会長の澤井さんに登壇していただきます。この半径2キロの地域防災拠点と言われているエリアが、おそらく一番被害が大きかったんじゃないかと推測されます。そのあたりのお話など、当時の状況をお聞きしたいと思っております。

次に、大元の連合町内会長、田中さんにお話をしていただこうと思います。ここは人口が増加している学区でして、町内会の活動、コミュニティー活動に、町内の方々がどう関わっていくのか、地域防災という視点においても重要になってくるかと思います。そのあたりを会長に伺いたいと思っております。

そして国外の取り組みも学んでみたいと思いまして、今日はアメリカのポートランドからマット・ビボウさんをお呼びしました。マットさんはポートランドでまちづくりに関わっており、シティ・リペアという団体で活動されています。ポートランドは全米一住みやすい町ということで常にランキングに挙がるようなところでなんですが、行政主導というよりは市民主体でまちづくりを行っています。

その中心メンバーのマットが、どんなことを大切にして、どんなことをやっているのかというお話を聞きながら、後半は枝廣さんのファシリテートで少しディスカッションができたらなと思っております。では、枝廣さんにバトンタッチしようと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

●枝廣さん/あらためまして、みなさんこんにちは。枝廣と言います。今ご紹介いただいたように、今回のプロセスをお手伝いさせていただくことになっています。今日のテーマは地域防災ということで、先ほども急に雨が降りましたが、なんか気温にしても、それから雨の降り方にしても変わってきたな、なんか違う時代に入ったんじゃないかな、そんなふうに思っていらっしゃる方も多いんじゃないかと思います。

私はずっと環境の活動をしてきて、みなさんがもし知ってくださっているとすると、アメリカの元副大統領のアル・ゴアさんが『不都合な真実』という温暖化に警鐘を鳴らす映画をつくって本を書かれたんですが、その本を翻訳して日本に紹介しました。ずっと温暖化に関わってきています。その関係でエネルギー政策であるとか、今は安倍首相が立ち上げた日本の長期戦略のための懇談会の委員などもやっています。

政府のレベルでもいろいろなお手伝いをしているんですが、私は今、未来は地域にしかないと思っていて、先ほどお話があったように、海士町とか北海道の小さな町であるとか、そういうところでまちづくりのお手伝いをさせていただいております。青江さんとのご縁があって、こちらの岡山の北長瀬の地区のまちづくりにも少し関わらせていただくことになってたいへんうれしく思っています。

では、先ほどお話があったように、最初にいろいろなお話を聞いて学びつつ、後半は、じゃあこの町をどんな町にしていきたいのか、みなさんのいろいろなご意見を出し合うような、そんな時間を設けられたらと思っています。ではさっそくですが、澤井さんにお話を伺っていきたいと思います。お願いします。

●澤井さん(御南学区連合町内会長)
「今回の大雨災害の被害状況」

みなさんこんにちは、御南学区連合町内会長の澤井と申します、よろしくお願いします。7月豪雨の被害状況と、我々の学区はどういう取り組みをしているかということをご紹介させていただければと思います。

これが7月豪雨の発生状況です。笹ヶ瀬川右岸の地域、ここには載ってないんですけど中山学区とか平津学区とかが被害に遭ってます。上流地域である綾南学区、5900世帯あります、ここで床上床下あわせて2000世帯、3割強の住宅が浸水しています。

御南学区においては笹ヶ瀬川右岸地域である久米町内会、今保町内会あわせて1100ちょっとの世帯があるんですけれど、約700世帯が床下床上の浸水被害を受けております。これもやはり30%強の被害ですね。

笹ヶ瀬川の左岸、東側に当たる田中から西長瀬につきましては、約3100世帯ですが浸水被害を受けたという報告はありません。

実は私のほうでは、水害が出るたびにデータを取っていっています。これが当日7月5日の10時から7月7日の10時にかけての雨量の状況と笹ヶ瀬川の水位です。7月5日から7月7日、48時間で約300ミリの雨が降っています。その中で6日から7日の24時間で184ミリの雨が降っております。

笹ヶ瀬川の最高水位が7月7日の2時半頃、4メートル2センチという水位まで上昇しています。4.5メートルぐらいの水には耐えられる堤防の高さになっていますが、この時点ではよかったんですけれど、その後、用水の内水がどんどん増えてきて、内水が最高水位に達したのがほぼ1日遅れで、7月7日の23時頃、地域の内水が最高水位の1.8メートルを超えたという状況になっています。

この1.8メートルという内水の水位は、低い位置にある家ですと50cmぐらいは床上浸水しているお宅もあったと聞いております。だいたい笹ヶ瀬川の水位が2.8メートルを超えますと内水がどんどん増えてきだすんですけれど、これまでこんなに大きな内水が出たということはございませんでした。

7月6日の21時から5時間で89ミリという雨が降っております。その間で1.38メートルの水位が急速に増えています。笹ヶ瀬川は急速な雨が降った場合、とてもじゃないけどその急速な水を貯える余裕がない川ということになっていますので、みなさんにはそのへんを覚えておいていただければと思います。

これは先日の久米町内会の被災状況です。赤丸のところが床上浸水、その他の色が床下浸水です。次に、これが同じく今保の浸水地域で赤が床上浸水、黄色が床下浸水、道路が全部まともに通れる道はございませんでした。道はぜんぶ迂回しようにも迂回しようがない。

水没した自家用車も何台かございました。あと、後処理で一番たいへんだったのがゴミですね。家具とかが大量に出まして、久米町内会のわずかな世帯でも、約900平米、30×30メートルの場所に3メートルくらい山積みの状態で、市役所に片づけていただくのに3〜4日ぐらい、トラックが10台ずつぐらい来て、最後はクレーン車まできて積んで帰ってくれたという。水害でたいへんなのがゴミの処理です。

【これまでに取り組んできた災害対策】

平成23年5月に笹ヶ瀬川が越水しました。当時、笹ヶ瀬川の堤防で右岸の方、一番低い3.7メートルのところで越水しています。雨が降ると危険性があるということで、これは本当に考えなきゃいけないなということで、その後、堤防の工事がされて、もう大丈夫だろうと思っていたんですけれど、やはりいくら堤防を高くしてもそれ以上の雨が降ったら洪水、内水の氾濫は抑えられない。

ではどう対応していくかということで、御南学区として災害に備える、災害が起きた時に被害を少なくする取り組みをしてまいりました。これはまず第一段階なんですけれども、平成24年度御南学区コミュニティのほうで災害が起きた場合に備え、少し災害用品も揃えようということで揃えていただきました。デジタル簡易無線機、仮設用トイレ・トイレ用テント、携帯浄水器、その他ソーラー付き充電ラジオなどを用意しています。

今回、御南小学区は御南小に避難所が開設されました。みなさんこの中で自分はこういう水害があった場合に、水は1日分、3日分確保している、食べ物も確保しているよっていう方いらっしゃいますか? さすがですね。今回、御南小に避難所が開設されたんですけれど、御南小で配られたのは、最初は水が1本と乾パン1袋。これが1日分です。

2日目、同じく水が1本、乾パン、あるいは米。これは3食分じゃないです。1日1食分として、避難所ではそれしか配られていません。ということは、あとの2食分とか飲み物は自分で確保しておくしかない。

今回みたいに広域で水害が出て、いたるところで避難所が開設されている場合は、市からの支援物資というのは潤沢な量は来ないというつもりで、やはり自分たちの地域、自分たちのコミュニティの分は自分たちで用意することが重要なんだなと、今回つくづく感じた次第です。

もともと御南学区では平成21年度に安全安心ネットワークという組織ができてから、防災訓練をやってきました。防災講和とか消火器体験などを行っていたんですけれども、平成23年の災害が起きてからは、これだけでは足りないよねと気が付きました。

じゃあどうやっていこうかということで悩んでいたところ、岡山西支援学校さんが県からの指定を受けて学校としての防災教育を行うので、それに地域も参加していただけませんかということで、西学区、御南学区、合わせて防災教育というものを始めたわけです。

これは今年で4年目になります。内容はその都度その時期その予算に合ったことをやっています。支援学校さんは学識を中心とした取り組みをされて、我々はその学識プラス経験を生かしてやっていくということで、訓練を始めました。

そういった中で、平成27年度8月に合同の防災訓練というかワークショップ的なものをやりました。御南学区の地理的な特徴を知り、HUG体験を通し避難所運営のノウハウを学び、避難所の開設・運営を体験する。そういったことを、西学区・御南学区の安全安心ネットワークの役員が勉強し、経験を積んでいます。

【防災訓練から得られた気づき】

それを受けて御南学区でも防災訓練の内容を見直していこうということで、少し変更しております。これがその時の取り組みなんですけど、これは平成23年9月の台風で水害が起きた時に、御南学区の道路が冠水した時の図です。丸で囲んでますけれども、このへんの道路が冠水したというレベルの水害状況でした。

それで各学区でどこの避難場所へどう行くかという経路の確認をしていくと共に、防災訓練についても従来やってきたコースに加えて土嚢づくりをやってもらいますよとか、仮設トイレを組み立てて設置してもらいますよとか、こういった訓練内容に変えていっております。それと同時に救急法や段ボールトイレの作成方法を学ぶ、飯ごう炊飯、かまど炊飯でご飯を炊くということを付け加えております。

こういった取り組みをしている中で、御南学区の場合は避難場所が御南小学校となっていますけど、実は笹ヶ瀬川の左岸、東側に住まわれている町内会の方はわざわざ水が出ている時に川を渡って西側に避難することはないだろう、というようなことがございまして、この自主防災という組織そのものをきちんとしていかなければならないと。二つの避難所運営ができる体制をとっていかなければならないということが今一つ課題になっています。

あとこの活動をやっている中で気づきが出ています。例えば防災士もほしいねとか、避難所を運営した場合に今の体育館一つだけの避難所体制だとやっぱり無理があるとか。その中で一番大きな悩みというのが、連合町内会も安全安心ネットワークも、お年寄りの方が中心に動いているということです。若い方が参加してくださることが非常に少ないといったような事態があります。そういったことを踏まえて、このへんのかたちをきちんとしていくのが課題だと思っています。

ちょっと取りとめのないつたない説明になったんですけれど、災害の状況です。ありがとうございました。

●枝廣さん/具体的なお話をありがとうございました。ちょっと私から質問をさせていただきたいと思いますが。町内会長さんとして町内の方々に普段から呼びかけて、例えば訓練ちゃんと参加してほしいとか、こういうことを意識してほしいとか、働きかけされていると思うのですが、そのあたりの手ごたえはどんな感じでしょうか。

●澤井さん/やはり今、我々が真剣に、深刻に考えているのが防災訓練なんですけれども、毎年11月23日と決めて案内させていただいているんですけれど、こちらが期待している若い方の参加が少ない。お年寄りが中心の参加状況です。訓練メニューも工夫しているので、どんどん参加していただけたらありがたいなということです。

私たちの町内には笹ヶ瀬川があり、この川はいつ氾濫してもおかしくないという意識付けをしていただいて、今回のような水が出るようなことは二度とないよということはないと、そういったことに対する備えの意識だけは常々持っておいていただきたいと思っていますし、そういったことで町内の防災に対する非常訓練というのも毎年1回行っています。

実はこの災害の出る一週間前にちょうど久米町内会の防災の説明会を行いまして、その時に避難所についてもここへ行かなきゃだめだよとか、この時間のうちに小学校へ行くんだよということを周知したんですけれど、それでもやはり違う場所へ行かれる方がいたというのもありまして、説明PRが大切だなということを痛感した次第です。

●枝廣さん/ありがとうございます。地域の防災力を高めるというすごく大事なキーワードで、ここまでちゃんとやっていらっしゃる町内会って珍しいなって、ひるがえって自分のところを思うと、自分もどこへ避難したらいいかちゃんと分かっているかなと思いながら聞いていました。

今おっしゃったようにこれでおしまいではなくて、残念ながら温暖化の科学者が言っているところによると、こないだの洪水が温暖化のせいだと断言はできないけれど、温暖化が進むと、気温が上がるし雨の降り方が急になるし、こういう被害が減ることはない、どちらかと言うと増えていくということが予測されます。

あともう一つは、想定外ですよね。今までこれは起こることがないって思っていたけれど、それを越えてしまうような雨の降り方もこれからきっと出てくるだろうと心配されています。そういった意味では、基本的な防災力と、今までにはないことも予期した上での防災力も大事になってくるかなと思います。

あとでまたぜひ澤井さんにもお話に関わっていただければと思います。ありがとうございました。では次に、田中町内会長さんにお話を伺いたいと思います。お願いします。