【人の暮らしは土を良くすることができる】

うちの敷地にはいっぱい落ち葉が降り積もります。落葉樹の林なので。栗の木やコナラの木、いろんな落葉樹が土の中から集めたミネラル、あるいは太陽のエネルギーを葉っぱに変えていきます。それが地面に落ちるわけです。それをうちの畑を通してまた再循環するような仕組みにするために、この堆肥枠を作っているわけです。このシーズンになると落ち葉をみんな堆肥枠に入れていきます。去年できた腐葉土、落ち葉堆肥を、畑に入れていくわけですね。ちょうど今入れている時期です。

あと道路、これもグリーンインフラになるかもしれないですけれど、うちの町では側溝とか道の脇にかなり落ち葉がたまります。それで事故が起こったりするんですけど、そういうものを今はシルバー人材センターのおじいちゃんおばあちゃんたちが片付けたりするんですけど、側溝の横に置いちゃうわけですよ。そうすると風が吹くとまた側溝に入ります。そんな無駄なことやってるんです。

もしこれを市民一人ひとりが自分の畑で肥料の代わりに使うようになれば、道も掃除できる、落ち葉の循環も起こる、地域のいい土ができる、ということはいい農産物ができる。いい農産物ができるということは地域のブランドができます。というふうに人々の暮らしがその地にいい働きを起こす。これをポジティブフィードバックって言います。

これは落ち葉でできた堆肥なんですけど、本当に土のようないい堆肥ができます。この瓶の中に何が入ってるかというと、僕ら家族がここに住み始めてどれだけ土が変わっていったかをサンプリングしているものなんですけど、最初はこういう白っぽい土だったものが、年々黒くなっていって今じゃ黒土。しかも団粒構造っていう粒々の状態です。人の暮らしは、土を悪くするんじゃなくて、良くすることができるっていうことの一つの証明です。

2年ほど前、テレビ番組の「世界ふしぎ発見!」に僕ら家族は取材を受けました。その時の特集が腸内フローラっていうものだったんですけど、それで僕ら家族のウンチを調べてもらいました。今、一般的に言われている腸内フローラの理想的な割合っていうのは善玉菌2、日和見菌7、悪玉菌1なんですが、僕ら家族はみんな5割が善玉菌だったんです。

これは僕の考えでは、環境の中にたくさんいい菌がいて、それが僕らの体に供給されていて常に体の中を微生物が循環することによって、それが腸の中のフローラの割合になっているんじゃないかと。そういうふうなことが起こってたわけです。

【魚と植物を同時に育てるアクアポニックス】

さっき加藤先生の話の中でも雨水タンクの話がありましたけれども、うちも設置していて、これ1万リットル入る蒸留タンクなんですけれども、ここで溜めたタンクの水を温室で使っています。この温室に多種多様な生き物が棲むようにしていて、なるべくそこに栄養分、エネルギーが集まるような形にして、作物が育つようにしています。

うちの畑からは南アルプスが見えるんですよ。ハウスの中はこういうふうになっています。竃のキッチンなんですけど、ここでいろんな調理もできるし、さっきの雨水タンクの水はこの中で使えるし。

これはさっきのお話で、菌を使っています。光合成細菌と言うんですけど、これは35億年前から地球にいる微生物で、この菌を畑に撒いてあげると、たくさんの微生物が棲むきっかけを作ることができるわけです。

あとは温室の中でドジョウの養殖をしています。おしっこをここに入れることによって、その栄養分によってクロレラができる。クロレラをミジンコが食べて、ミジンコが増える。今度はミジンコをドジョウが食べて、ドジョウが増える。ドジョウは僕らも食べることができる。

ドジョウはウンチやおしっこをします。水は汚くなるんですけど、この水は今度、奥にある太陽光パネルの電力によって汲み上げられて、ポットに埋まっている空芯菜に水が循環するようにしています。汚い水の中の栄養を吸収してこの空芯菜が育つ。そうして水がきれいに循環するという、アクアポニックスっていう仕組みを作っています。なので餌を買わなくても僕らのおしっこさえ投入すればドジョウが育つようになっている。そして空芯菜が育つ仕組みになっているんです。

これは岡山の街なかじゃできないでしょっていう話になるかもしれない。でも近郊だったらある程度できることなんです。うちの暮らしはフルスペックな仕組みを実践しているわけなんですけど、サイズダウンしてやるということもできますし。

【かつて自分たちが持っていた文化をもう一度取り戻す】

僕の大きな目的としては、もし東京湾を今日お話ししたバイオジオフィルターにすることができれば、あの1000万人の都市の生活が、生き物に生かせる形にできるんじゃないかと考えます。

この仕組み、もともと日本人は持っていました。江戸時代、100万人いる都市を全部循環させていました。髪の毛一本、紙ひとくず、あらゆるものが循環していました。その知恵がさっきお話しした、戦中戦後まで100%バイオマス・エネルギーでまわっていたんですよっていう暮らしにつながっているわけです。

その後、僕らはもったいないという言葉が生まれるような文化を生み出していたのに、戦後の高度成長期時代に失われていってしまったんです。今、どこも津々浦々同じ景色なんですよ。本当はその土地その土地の風土にあった暮らしをみなさんが脈々と受け継いで、文化っていう形で生活の技術を維持していれば、みなさんの今の暮らしの景色は、岡山は岡山の景色になったんだと思います。

例えば焼杉の家とか、僕あれ大好きなんですけど、ああいう家がいっぱい広がっていたんだと思います。でも今はハウスメーカーの家で、あるいは大型量販店の景色で埋めつくされていますよね。それは生きる力につながらないんです。

だから今日お話ししたことをいきなりやるのは無理だと思うんですけど、なんとなくこういうことを意識しながら暮らしを組み立てていき、みなさん自身が古風な生活の技術をもう一回取り戻す、自分たちの持っていた文化をもう一回取り戻すっていうことを生活の中に実現させていってもらえれば。

それが実現することによって、地域の強さ、災害が起こってもすぐにそれに対処できるような、災害が起こってもストレスを感じないような街づくりっていうものにつなげることができると思うんです。

【自分の暮らしのスキルを上げていくこと】

うちも3年前に大雪が降って閉じ込めに遭いました。近所の人たちは家から出られないって言って大変なことになったんです。コンビニもヘリコプターで物資が運ばれてくるようなことが起こったんですけれど、うちはエネルギーも食べ物もいろんなライフラインもほとんど自分たちで確保してるので困ることはなかったです。

でもそこまで極端にやることないけど、ある程度さっき加藤先生がおっしゃられたようなインフラ、あるいは土台となるみなさんの生活技術、これがないと、社会はなり得ないと思っています。

日本ではもともと、8割以上の人が第一次産業に従事していました。今は1%ぐらいの人が農業に関わっています。しかも平均年齢は65歳。もう社会構造としてはおかしいんです。もしみなさんが暮らしの感覚を昔からずっと受け継いでいれば、こんな人口構成、奇妙な構成になってないと思います。自然と連動した暮らしになっていたと思います。

なぜなら僕らは江戸時代からの文化を持っていたからです。だからもう一回それを見直してみなさんの暮らしを組み立て直す、もしかしたらあそこの操車場跡地の公園だったりとか、公園を使えば、そのきっかけにできるかもしれない。

あるいは近隣のいろんな山とか、そういったものを維持する活動にまわってみたりとか、自分の暮らしのスキルを上げていくっていうことができるかもしれない。そういうふうな暮らしをもう一回考え直すことを、やってもらえたらと思います。ありがとうございました。

(休憩)

<第二部>

●枝廣さん/今日のお二人のお話を町づくりに生かすのは、具体的に自分の町のことを考えていくことだと思います。ですので、今からの時間を少し短めのワークショップ形式で自分たちのこの町に引きつけて考えていきましょう。それで初めて出てくる疑問とか、あると思うんですね。

ここの地域の2キロ圏内くらいの地図をあちこちに置いてもらっています。地図が大きいのでおそらくほとんどのグループは下に地図を置いてもらってまわりで話をする形になると思います。

町の中を見ながら「ここでこういうことができるんじゃないの」とか、お二人から話を聞いた、自然の力を活かして暮らしを成り立たせていくという、「今ここ使ってないけどこういうことできるんじゃないか」ということを話し合っていただけたらと思います。

じゃあまず、25分短い時間ですが、適当にグループ分かれていただいて、ここの地域で今日聞いたようなこと、それ以外のことでもいいです。この町を本当に住みやすい持続可能で幸せな町にするために「ここでこんなことできたらいいね」「ここをもうちょっとこういうふうに使えるんじゃない」という話をしていただいて、25分たったら声をかけます。

(グループワーク)

●枝廣/では加藤先生と四井さん壇上へお上がりください。

●加藤さん/私は3つくらいのグループしか見れてませんが、素晴らしいアイデアが本当にたくさん出てまして、私も非常に勉強になりました。この地域に住んでいる人たちが、わくわくして一緒に暮らしていけるようなコミュニティーを作っていくことが一番大切だと思いますので、こういう実践形式というか、実際に地図を見て、ここにはこういうのがあるよねとか、ここはちょっとこういうことが問題だよねというのを、もっと一緒に話し合う機会が持てたら良いなと思いました。

●四井さん/今日の話をみなさん聞いて、すぐに地図に落とせていたので、本当に今、加藤先生がおっしゃっていたように、これだけいろいろなことが考えられるということは、かなり町づくりを具体的に進められると思いました。

●枝廣さん/こういう、お二人の話を聞くような講演会ってあちこちでたくさんあると思うんですけど、良い話を聞いたなあで終わっちゃうことが多いんですよね。それを自分の町だったらここでこういうことできるよね、用水路あるよね、これどういうふうに使っていったらいいんだろう。そういう時にもちろん今すぐにできることもあるし、規制とかいろんなことですぐにできないこともある。

だけどもしかしたら、規制を変えることも取り組みの一つかも知れない。なので、未来に向けて、これはすぐにはできないけどできたらいいな、じゃあそれを実現するためにどんなことやっていったらいいだろう。いろいろなレベルで町づくりを進められるし、そのフィールドを持っていらっしゃるこの地域は素敵だなと思って私も見ていました。

みなさんのほうからお二人への質問でもいいですし、特にこの作業をやってみて気づいたこととか、この作業をやってみて出てきた質問、そのあたりですね、みなさんからコメントでもいいですし、質問でもいいです。壇上の3人からもいろいろとお答えとかコメントとかお返しできるかなと思います。どうでしょう。なにか気づいたこととか、感じたこととか…

【バイオジオフィルターについて】

●参加者/今日はありがとうございました。愛媛から来ました松井と申します。愛媛で農土活動をしております。四井さんに質問なんですけど、先程のバイオジオフィルターっていうのがすごく興味がありまして、あれはキッチンの洗剤とか油をそのまま流しても大丈夫なんですか?

●四井さん/はい、それにはしかるべき仕組みを作らなければいけないんですけど、油分はかなり問題になるんですね、バイオジオフィルターが目詰まりを起こしてしまうので、それを解消するためにミミズを使うんですね。ミミズに油かすを食べてもらう。

●参加者/ミミズはイトミミズですか?

●四井さん/シバミミズ。ミミズコンポストとかで使われるものなんですけど、釣り具屋さんに売ってるミミズと同じやつです。そういうものを使ったりとかいろんな方法があるので。それは、出てくる排水の質に合わせてデザインするんですね。

●参加者/洗剤をオーガニックのものに変える必要はありますか?

●四井さん/必要あります。それは石鹸系のものを使えばいい。パレスチナのガザ地区で水問題がすごく起こっているので、来年それの支援に行くんですけど、みなさん自身でも今日お話ししたバイオジオフィルターっていうのは作れるんですよ。だからぜひ実践してもらえたらいいなと思います。

●参加者/水辺の植物は、どんな種類の植物を。

●四井さん/バイオジオフィルターの上流と下流で水質が違うんですよ。上流はやっぱり汚れの強い水が入ってきてて、だんだん植物によって浄化されていく。それぞれの場所に合うものが植えられています。あるいは棲み分けが起こります。例えば上流だとセキショウとかクレソンとか、あと空心菜とか、菖蒲とか。下流は、うちは山葵を植えています。うちの一般家庭、4人家族だと10メートル。ぜひやってみてください。

●参加者/ありがとうございます。

【使える自然の力の範囲内で暮らすということ】

●枝廣さん/ありがとうございます。今のに関連して私もお伺いしたいのですが、今10メートルあればいいですというお話でしたが、例えば10メートルあってもジャンジャカ排水を出したらダメですよね。

●四井さん/はい。

●枝廣さん/そこで処理できる、もしくは浄化できる量、つまり自然が許容できる量の範囲内で暮らすということだと思うんですよね。もしくは暮らしから出る排水が多いんだったら10メートルを12メートルにしないといけないとか、その自然が浄化できる、自然が許容できる量っていうのはどうやって測るんですか? こっちから出す排水の量は測り方はわかるんですけど。

●四井さん/それが今のお話の通り経験値でしかないと思うんですよ。例えば生ごみ段ボールコンポストでも他の方から相談を受けて、各家で堆肥で入ってくる成分を調べてもらったんですけど、全然違います。

だからやっぱりその家々で違うんですけど、今、枝廣さんおっしゃった通り、例えば洗剤の話が出ましたけど、バイオジオフィルターという能力に合わせて暮らしを変えていくってことも大切だと思います。

バイオジオフィルターは言い換えれば自然の力を活かすことなんですね。自然の力そのものを活かすことなので、無理なことをやらないとか、自然エネルギーもそうですよね。僕も蓄電池を貯めて暮らしてたことがあるんですけど、やっぱりその時に照ったお日様で蓄えられる量は限られるので、限られた中でどう自分たちの暮らしを組み立てていくのか、それが暮らしの判断材料、物差しになっていくと思うんです。

●枝廣さん/今のはすごく大事な発想の転換というか、当然だと私たちが思っていることの転換だと思います。かなり前になるんですけど、カタログハウスという雑誌でいろいろなものの循環の連載をしていたことがあります。その時に生ごみの循環の話があって、自然の力だけで生ごみを処理するという、そういうものを取材していたんですね。

自然の力を使っているからそんなにたくさんの生ごみを処理できない。だからそこのお母さんが「うちの生ごみが処理しきれないから、もう一台買おうか」っていう話をした時に、子供に「生ごみの量を減らしたらいいんだよ。それに合わせて自分たちの生活を変えたらいいんだよ」って言われて、子供に教えられましたっていう話をされてて。

私たち好き勝手な生活をして、それに必要な電力とかごみの処理とか、どうしようかって考える。だからどこまでも電力が必要になって原発ですかって話になるけど、もともと私たちが使える自然の力の範囲内で暮らすっていう、暮らしのほうを自然に合わせる、そういう発想ってすごく大事だと思うんですよね。