今回のテーマ

小商い〜食糧と経済の循環

開催日時:平成30年10月27日
開催場所:くらしのたね

【話し手】
近藤英和(自然食コタン代表)
三宅洋平(ミュージシャン)

【聞き手】
枝廣淳子(環境ジャーナリスト)

【進行】
青江整一(くらしのたね/ミナモト建築工房代表)

第一部

●青江/ミナモト建築工房代表、くらしのたね世話人の青江整一です。今回は小商い、食料と経済の循環というテーマです。最近、『小商いのすすめ』という平川克美さんの本を読んだんですが、こんなことが書かれていました。小商いとは、今ここにある自分に関して責任を持つ生き方であると。さらに言えば、本来自分には責任がない、「今・ここ」に対して責任を持つことであると。

今、社会の中にいろいろな問題があります。それは自分たちがつくった問題ではなく、過去の人たちつくった問題であって、自分たちには責任がない。でもその問題に自分で責任を取ろうとすることが、小商いの原点になると、この本に書かれています。

今、僕たちがなぜここで小商いをテーマに話をしようとしているのか、なぜみなさんもそれに興味を持って集まってくれたかということなんですけど、「ヒューマンスケールの回復」ということを、実はみなさん求めているのではないかと思うんです。地に足をつけて、互いに生かしあい、補いあいながら生きていくという暮らし方が、小商いのヒントになるんじゃないかということが書かれていました。

今日はゲストを2人お招きしています。そのあたりの実践的なお話を聞きながら、時間を一緒に過ごしていけたらなと思います。

この地域は半径2キロが地域防災拠点という位置づけで、再開発が今まさに進んでいるところです。この街づくりを市民みんなで考えて、こういう暮らし方があったらいいんじゃないか、こういう街づくりの仕方があったらいいんじゃないかということを岡山市に提案し、ただシンポジウムをやって素敵な話だったねで終わるのではなく、小さなことでもいいので、形にしていけたらという思いでやっています。

今日のゲスト、近藤英和さんはオーガニックスーパーの「コタン」で店主をされています。高知県で生まれ育って、岡山に来る前にイギリスやインドなどを渡り歩いています。「コタン」は生産者の顔が見えるお店として、消費者との関係を築きながら活動されています。

今14年目で、最初のころは全然相手にされなかったことが、やっと実を結び始めているとおっしゃっていました。また最近、犬島で無人のオーガニック食品販売所にチャレンジして大成功を収めたという話も、今日聞けたらなと思います。よろしくお願いします。

そして三宅商店の三宅洋平さん。若者から圧倒的な支持を集めるプロのミュージシャンです。現在は吉備中央町に拠点を移して環境志向の雑貨店「三宅商店」を運営しています。実は環境派として参院選挙戦の経験もあるという異色の肩書きを持つ方です。

現在は自分たちの住む場所、目の前にある「ワンブロックの政治」ということで、原点に立ち返って自分たちの暮らす町の復興など、地に足を付けた活動をされています。よろしくお願いします。

そして枝廣淳子さん。東京から来られてまして、環境ジャーナリストとして世界中を飛びまわりつつ、地方創生においても活躍されています。アル・ゴア元アメリカ副大統領の『不都合な真実』という本を翻訳して日本に紹介されたりとか、最近では『地元経済を創りなおす』という新書も出されています。

また、SDGs(エスディージーズ)という国連が推進しているテーマに関しての先導者的な存在です。来年2月17日に岡山市主催のSDGsフォーラムで基調講演をされるということなので、そちらもみなさんよかったら足を運んでいただけたらと思います。

では、枝廣先生にマイクをお渡しします。よろしくお願いします。

●枝廣さん/みなさんこんにちは。「くらしのたねまきシンポジウム」全4回の企画と運営のお手伝いをさせていただいています。 今、SDGsという話がありました。これは2030年までに「誰一人とり残さずに、みんなで幸せな持続可能な社会をつくっていこう」という国連の目標です。17の目標がつくられています。

その目標の11番目がまちづくりなんですね。なので、この「くらしのたねまきシンポジウム」はSDGsの「目標11」につながるようなシンポジウムということで、チラシにも書いてあると思います。

この北長瀬の地が、これから再開発でまちづくりをしていく時に、できるだけ街の方々が、今の世代もそして未来の世代も、「ここに住んでいてよかったなあ」と思えるような街にしていくために、この連続のシンポジウムをしているわけです。

今日は「小商い」というテーマで素敵なゲストをお招きしているので、流れとしてはまず最初はお二人の話を伺って、私もいろいろお聞きしたいことがあるので、3人対談みたいな形でお話しができるといいなと思っています。

そして会場のみなさん、いろいろ聞きたいこととかお話しになりたいこととかあると思うので、みんなで話をしながら、どうやって大事な食べ物、そして経済をまちづくりに生かしていけるか、もしくは折り込んでいけるかをお話しできればと思っています。ではさっそくですが、近藤さんからお願いします。

【「当たり前の食品」を扱いたい】

●近藤さん/はじめまして。自然食コタンというのを14年やっています、近藤英和と言います。よろしくお願いします。僕はもともと高知県出身で、東京に10年、その後いろいろ転々としながら、縁あって岡山でコタンを始めました。

食品関係の仕事には一切ついたことなかったんです。オーガニックとはなんだろう、という話を知人としたのがきっかけでした。今は僕なんでも食べるんですけど、ベジタリアンだった期間が3年くらいあって、そのときに「食べるものを選ぶこと」に向かい合いました。その時期に始めたのがコタンです。

自分が気に入ったものを売りたい、こだわったものを売りたいということで、始めに小豆島に渡りました。食品の一番のベースは何かなと考えたら、醤油じゃないかということで、小豆島の醤油屋さんを10軒くらい全部見ていきました。ここでいろんなタイプの醤油屋さんを見たことが、僕の食品選びの原点になっていると思います。

そんな中で、「本当のものを扱いたい」「自信を持って売りたい」という気持ちがあって、有機、無農薬、無添加の食材を扱う店をつくることになります。昔は添加物も農薬もまったくない中でみんなが生きてたわけで、そっちが当たり前の食品なのに、今はレアというか特別なものになっている。僕は当たり前のほうを当たり前にしたい。

【「量り売り」は理に適っている】

ただ、みなさん感じてると思うんですけど、そういう食品ってやっぱり高いんですよ。「お金持ちが買うものでしょ」という感じが当時からあって。それじゃ意味がない、もっと日常的に、当たり前にみんなが使える食材として、当たり前のものとして売りたいという気持ちがありました。そこで量り売りをしました。

必要な分だけ買えるということは、余分なものは買わなくていいということです。お味噌を1キロ買って余らせる、ずーっと眠らせる、ドレッシング買って余らせるってことよくあると思うんです。必要な分だけ買えるっていうのは理に適っている。そしてパッケージ代やデザイン代を省くことで1割、2割安くできます。

量り売りは、好きなぶんだけ1グラムから買えます。野菜も量り売り。うちはワッカファームっていう農場が瀬戸内市にあって、そちらを任せている責任者がいて、彼が農場を13年やっています。

50種類の野菜を自然栽培で育てています。また、農場でつくった小麦を使ってパンを焼いています。市(いち)にもよく出店してて、京橋朝市は13年休んでいないことが自慢です。市に出すときも量り売りでやっています。

【自分たちと繋がりのある食材を扱う】

先ほど言った、オーガニックってなんだろうなという疑問から始まったという話ですけども、これ分かりやすい話で、2つのほうれん草があるとして、1つは外国から来た残留農薬ゼロの完全無欠のほうれん草、もう1つは隣りのおばあちゃんがくれた農薬を使ってるほうれん草、どっちがオーガニックだろうってことを考えたときに、僕はおばあちゃんがくれたほうが、より自然で、オーガニックだっていうふうに感じたわけです。

遠くから来たものは繋がりがない。でも隣りのおばあちゃんが「あんたのためやから野菜食べなあかん」ってくれたものっていうのは、「おばあちゃん、あんまり薬かけなくても、虫が食ってても僕食べるから、もう少し農薬減らしたら?」って言える。で、「そうかい」って言って減らしてくれたり。そうやってお互い影響し合いながら良くなっていく。

こういう繋がりこそがオーガニックなんじゃないかなということを考えて、「近場のもの」というのをコンセプトにして商品を集めていきました。有機JASマークがついてるものだけがオーガニックという話ではなくて、オーガニックという感覚がどういうものなのかというのを考えながら商品を探してきました。

【問屋さんを通さない商売】

「量り売りをすること」「なるべく近場のもの・繋がりを持つものを扱うこと」、そして「問屋さんを通さない」、これを基本コンセプトにしてやってきました。

問屋さんから買うと1枚のFAXで50種類くらいの商品が簡単に揃います。支払いも1回。でも、いくらいいものでも問屋さんを通しちゃうと、それがどんな感じでつくられてるのか、情報が途切れちゃうわけです。売ってる側としてもお客さんに説明できない。それはやりたいこととは違う。

うちは問屋さんを通さずやってきて、今やもう200くらい取引先があって大変なんですけど、だからこそ独特のお店になる、品揃えになる。そういう、ちょっと変わった経営内容でやっております。

がむしゃらに13年、あまりどこの真似をするとかもなくやってきました。今回、小商いっていう部分でいうと、自分のところが小商いに入るのかどうかも分かりません。ちょっと、小商いっていう言葉が曖昧っていうか。そういうところを僕も一緒に話しながら考えていきたいなと思っています。よろしくお願いします。

【体を壊してから考え始めたこと】

●三宅さん/三宅洋平です。よろしくお願いします。実はこのコタンが、僕が三宅商店っていうオンラインショップをやってる一つのきっかけでもあるんですけど、12年くらい前に赤穂のロックフェスティバルに出演した時に、ヒデ君がすごいかっこいい出店をしてたんですよ。

こう見えても僕、脱サラミュージシャンで22歳くらいのときはけっこう過労死天国みたいなところで働いていたので、体をちょっと壊したんですね。で、メジャーからデビューするぞってときになって、ミュージシャンとして頑張ろうっていうときに、ちょっと大きい手術をしたんです。

これが消化器系の手術だったんで、それがきっかけで玄米を食べるようになったりとか、ちょっとベジ志向になったりとかしていたころです。で、ロックフェスの出店の中でも彼の品物の置き方とかチョイスが僕的にはすごい光ってて、特に彼の醤油にやられたんです。で、東京に当時住んでたんですけども、喜んで買って帰って。それからスーパーに物を買いに行ったときに同じクオリティのものがないっていうことに突き当たった。

で、話はそこからすごく飛んでいって震災、原発事故以降、やっぱり多くの人が無力感に苛まれていたと思うんです。こんな放射能ぶちまけてるような政府に対して、こんな無力な僕らってなんなんだろうって思って。

ミュージシャンとして政治の色が付くっていうのは多くの人が恐れるんですが、ミュージシャンじゃなくてもいいやと思って、いち人間として、いち父親として言いたいことを一番大きい声で言える舞台として選挙に出ましょうと選んだ。それで足かけ5年くらいですかね、政治団体を開催しながら2回参議院選挙やりました。

山本太郎さんの当選も1回目は僕らが全国比例、彼が東京都っていうことで、彼のほうに票を集めることができた。2回目は彼と一緒に、バックアップを受ける形で東京の選挙に出たんですが、やっぱり東京在住じゃない僕が東京選挙区で、準備期間も短かったので、目標50万票で25万票くらいしかとることができなかった。

でもこれまでまったく政治に興味がなかった、あるいは政治に不信感が強いから政治を無視していたような人たちが、そうじゃない突破口もあるんじゃないかっていう雰囲気は、一つつくれたかなと思ってます。

【日常生活から考える環境問題】

この段階で、すでにミュージシャンなのか政治活動家なのか僕の肩書きが複雑になっているんですけど、そこでさらに、なぜ三宅商店の店主という肩書きを加えようとしたかと言いますと、2万人くらいの人が集まってくれたんですね。演説に。でもムーブメントが膨らむワクワク感とは裏腹に、言ってることが伝わってない気がする怖さっていうのがあったんです。それは、例えば集まるみなさんの着てる服や靴のブランドに対する意識であるとか。想像でしかないんですけど、それを家で洗剤で洗っているだろうという現実とか。

で、彼らが声高に福島の汚染水を止めろって言ってる姿を見たときに思ったのが、僕はけっこう若いころからこだわって、洗剤を使わない生活を探求してきたんですけど、やっぱり化学洗剤で自分の洋服を洗ってそれを排水として出している行為と、福島の汚染水がウエイトとして同じにならないと、環境問題が解決しないなと思ったんですね。

リベラルであるかどうかとか、放射能の話とか、そういうレイヤーだと意識が合致する人々が多いんですけど、意外と足元の生活面で、まだまだ僕らの社会がやんなくちゃいけないことがいっぱいあると思ったんです。

で、これをこういった形でしゃべると頷いてくれるんです、みなさん。うんうん。いいこと言ってると。でも帰りの電車に乗って家着いたら、たいがい忘れるんですよ。だからもし僕がその場で、洗剤に替わる選択肢を売ることができたら一番具体的なデモンストレーションになる。

【一人ひとりの消費動向が塊になれば社会は変わる】

物事はゆっくりにしか変わらない。みんなでどう変わっていけるのっていう話で。今着てるものはボロボロになるまで大事にするとして、次に買うときにどういう選択をするか。それが1万人、10万人っていう消費動向の塊になっていくと、ものすごく大きな力になるんですよ。

さっき言った洗濯排水も計算したんですけど、40リットルの洗濯槽で、1回目の排水が一番洗剤使いますよね。これだけをカウントしたとして、全国に5300万世帯あるんですけど、1世帯が2日に1回洗濯したとして年間で4億トンくらいになる。これが日本人だけですよ。日本人が出している生活排水のごく一部、洗濯排水の話なんですけど。

となると、ここの意識をどう変えていくか。今日の新聞の1面に福島汚染水が載ったかどうかよりも、すごくダイレクトな社会変革の部分だと。そういうポイントでものを見ていくと、日常生活のすべてのアクションが100個200個のデモンストレーションになってるんですよね。365日ブラッシュアップしていくと、社会全体も変わっていくし、単純な話、川もきれいになる。みたいなことが達成できると思うんです。

【小商いでどう生き残っていくか】

期待していたのは、25万票も入ったら25万人が買ってくれるかなと思ったんです。なかなかそうはいかないですね。だからそこはスモールビジネスの難しさで、結局はアマゾンみたいなところと競合しちゃうんですよ。勝てないんですよ。送料無料とか僕らはできないから。

この10月に運賃が上がりました。これは個人事業主にとってはものすごい不利な状況が加速されるし、法律や税金の使い道ってのは、大企業は国会議員とコネクトしてるので、どうしても彼らに有利な世の中になっていってる。小商いでどう生き残るのかっていうところを、いろいろ話したいなと思っているところです。

三宅商店で2018年に一番売れたものの一つだと思うんですけど、「洗たくマグちゃん」っていうマグネシウムが洗濯ネットに包まれた商品なんですけど、これは1年使いまわしができて、ほぼ洗剤がいらなくなる。宮本製作所っていう茨城の会社が開発したものなんですけど、けっこう僕らも騒いだし、テレビでも取り上げられ始めたので、製造が追いつかないっていう状況に今なっています。

これは象徴的な商品だと思ってるんですけど、「柔軟剤や洗剤っていらなかったんだ」ってことに気づく。電気洗濯機があれだけの勢いでお水をまわしているので、普段着ているほとんどのものなんて洗剤がなくてもきれいになることに気づくんです。そうすると、洗濯の概念も変わる。例えばそういう商品を、半ば政治的な志も乗せて売ってると思います。

●枝廣さん/ありがとうございます。今日のテーマである小商いとは何か? 商いじゃなくてね、「小」がつく。小商いとは何か。そんな話もしていきたいと思いますが、その前に。始めて13年とおっしゃっていましたよね、コタンね。そして三宅商店も5年。手ごたえとか、変化を感じるようなものはありましたか?

【だんだん支持者が増えているオーガニック】

●近藤さん/2005年に岡山で始めたころは、お店に来てくれる方がすごく少なかったです。ただ、一方で、京都の祭りに1年目で出店したときはお客さんのリアクションがすごくて、本当に評価してもらえてるっていう実感があって。都会にはこういうコミュニティがあって、こういう考えの人がいるんだなと。特に京都は反体制的な意識が文化としてあるので面白がってくれて。

そして2011年の3・11をきっかけに、西日本ではたぶんトップってくらい、移住者が岡山に移ってくるんですね。放射能がきっかけで食品の問題とか、今言った洗剤の問題とか、いろんなことに気づきが派生して。そんな中で、「買うのはコタンで」と言って買ってくれる人がいたりとか。「コタンがあるから岡山に来ました」と言う方もいて。2011年にようやく、そこまで僕どうやって生活していたのか覚えてないんですが、2011年からトントンになって。

ただ状況が良くなったわけではないし、問題を解決したわけでもないんだけど、意識だけが、注力する意識だけが、方向だけが変わったりしているだけで、問題は何も変わっていない。生産者も増えてないんですよ。有機農家さんにしても、メーカーにしても。

【大企業がオーガニックビジネスに参入してきた】

もう一つ大きなビッグウェーブというか、僕が13年やってきて変化を感じるのは、オーガニックが企業ビジネスになってきていること。アメリカではオーガニック専門の大きなスーパーマーケットがあったりだとか、小商いでない、大商いになったオーガニックビジネスがある。

日本も大手が、オーガニックがビジネスチャンスってことで乗り出して。それもオリジナルでつくった商品が並ぶ。資本もでかいし工場もでかいんで、有機JASマークのしっかり付いたトマトケチャップが198円です。うちはどう考えても500円くらいですね。長くやってるオーガニック業界の人たちと話をしてても、すごく危機感を持ってます。逆に。

オーガニック人口は増えてるんですよ。大きい会社の資本の力で増えてってるっていう状況で。それで安いものを出してこられちゃうので、けっこうな危機感を感じてます。今そんな状況があります。それをどう見分けるか、「同じトマトケチャップではないですよ」ってことは、僕の中では確信があるんですけど、そういうのをどう見極めていくかっていうのを、デモンストレーションじゃないですけど、できたらいいかなと思います。