<第二部>

【地域に入ったお金を地域内でまわしていくことが大切】

●枝廣さん/ソーシャル小商いにとって大事なことは、地域の中での循環を深めていくこと。今どの地域も、どの町も、外からお金を引っ張ってこようと一生懸命なんですね。国の補助金を取るとか交付金をもらうとか、企業誘致をするとか、観光客を呼んでお金を落としてもらうとか。だけど、今せっかく入ったお金が、またすぐ外へ出て行っちゃう。

例えば私が海士町でお土産を買っても、家に帰ってよく見ると、それは海士町でつくっていない。結局本土でつくっているとなると、せっかく島で買っても、手数料は残るけど、そのお金は島の外に出て行っちゃう。それを計るやり方があるというお話しを、さっきしました。

例えば2つの町があるとします。一つの町は、みんなが町で買うとか地元で買うとかを、全然意識してない。なので遠くの食品センターが安いよとか、モール行っちゃうとか、アマゾンで買うとか。買ったものがたまたま地域のものだったっていうのは2割だけっていう町があったとします。

その町に例えば1万円入ったとき、2割が地域で使われるから2000円ですよね。2000円もらった人も地域で2割使うから400円ですよね。そうやって2割2割2割かけていくと、最初に入った1万円がまわって1万2500円の価値を生み出します。

もう一つの町は、みんな地元で買うということを大切にしている。地元の商店で買う。地元の農家のものを買う。その町では8割が地元に残る。2割はどうしてもその地域にないから外のものを買うんですけど、8割が残る。そうすると1万円が同じように入ったとして8割残るから8000円。8000円の8割残るから6400円。それも8割残る。ずっと掛け算していくと、最終的には1万円が5万円の価値を生み出します。それだけ何回も何回もいろんな人の手を介して収入を生み出しているんですね。

なのでいくら引っ張ってくるかも大事だけれども、1回入ったお金を地域でどれだけまわしていくか。例えば観光業にお金が入ったんだったら、その宿の食材をできるだけ地元から買う。そうするとそのお金は今度は農家に行きますよね。そういうことを考えていくことが今すごく大事だと思って、それを今、計るようなこともやっています。というところまでちょっと追加をさせていただいて、三宅さん、近藤さんの方からどうでしょう?

【一人ひとりの日々の選択が町を支える】

●三宅さん/今の地域内循環の話なんですけど、地域内循環がどのぐらい大事かっていうことを僕が体感的につかめた話は、電気の話なんですけど、九州のほうで、田んぼの横にあるような小さい水流をうまく活用して村の発電を全部自分たちで自給することに成功した村があるんですね。宮崎だったかな。

例えばなんですけど、これは架空の数字を当てはめます。分かりやすくするために。例えば300世帯の地域で一世帯が年間に10万円電気代を使ってたとすると、3000万円のお金が九州電力に流れてる。この3000万円が、村でみんなで投資してつくった発電事業によって発電できると、地域内循環するわけですよね。

それは村の電気公社かなんかにお金が落ちて、そこで維持管理で働く人の給料になったり、もしくはそれで利益が出たらどんな形で管轄するかを考えるわけですけど、実際問題、会社とかやったり、ちょっと政治の予算のこととか勉強してみると、無垢の3000万円が地域内で生まれること自体、すごい大きなことだと思うんです。

これは僕の発想なんですけど、例えば地域通貨を発電量に応じて毎年発行していく。発電したぶん3000万円分の地域内通貨を発行して循環していくと、より地域から出ないのが分かりやすくなると思います。地域内循環のメリットっていうのは、僕はこの話がすごい体感的に分かりやすかった。

そういう形でありとあらゆる生活の一挙一動で、僕らはかなりのお金を現状、逃がしちゃってる。そうするとさっき言ったような、一人一人の日々のチョイスが町の経済を支えていることになるのかなって、そこの啓蒙がすごく大事だなって思いました。

【地域内循環を「見える」ようにするためには】

●近藤さん/地域内循環っていうものが外からお金を持ってくる以上に、持ってくる前の仕組みとしてすごく大事なことだと、すごく僕も腑に落ちてて、それをどう見える化するかっていうのも大事だと思っていて。

例えば、うちのトマトはワッカーファームの農場でつくったものです。それを例えばワッカーファームが東京の加工場に送って、加工して、それでまた買い取って売っているとしたら、その間のお金っていうのは東京に落ちるわけですね。見た目はうちの価値として岡山でつくられたトマトソースのように感じてても、加工場を外に置いちゃうとそこでお金はちょっとずつ出ちゃう。

じゃあ加工場も岡山にしようっていう取り組みをするべきだし、そういう細部細部でいろんなところでパッと見、地元のように見えて外にお金が逃げてるものとか、そういうものがいっぱいあると思うんで、それを見える化して、買う人が選べるようなものになっていったら、もうちょっと分かりやすいし、それを強制するのが地域通貨だと思うんです。

地域通貨って70年代・80年代にはいろんな地域で実験的にされてきたんですけど、なかなか活用されるところまで、成功例っていうのは僕も知らないっていうか、なんとなくふんわりやっているように思える。

地域通貨の可能性っていうのはすごく感じるんですけど、今日本の経済、消費活動の中で地域通貨っていうものの可能性とか、現実性みたいなものを、枝廣さんもなにかあったら。

【地産地消ではなく「地消地産」】

●枝廣さん/地域の中で生産したものを地域の人たちが買う、昔から地産地消という言葉があるんですけど、私の本の中でも書いてるのが「地消地産」。地域で消費しているものを、地域でつくっていこうという。電気もそう、食べ物もそう。おっしゃるように、地域で原材料をつくっても加工は外で、じゃないほうが、より地域で残るお金、まわるお金も増える。

高知県の例ですけど、高知県は野菜をたくさんつくっていて、野菜は他の都道府県よりも黒字なんですが、でも全般的には赤字。高知県がなんで赤字なのか、つまり他の都道府県から買ってるものは何かを調べると、たくさん野菜を売っているのに、食料加工品をいっぱい買ってるんですね。

原材料をつくって売って、他の県で加工したのを買ってるんです。そうすると、加工して買うほうが高いので、結局お金を失ってるんですね。高知県の人とそういう話をしたときに、これは高知県の生姜の加工品で、ご飯のお供みたいなすごい有名なものがあるんです、銀座のアンテナショップで何年連続1番の売上げみたいな。

その商品は高知県の生姜を宮崎県に持っていって宮崎県で加工してもらって高知県が買ってた。その当時、高知県ではそれを加工できる業者がなかったんですね。だけどそのあと加工できる業者が高知県にもできて、天候不順で宮崎の業者がうまくできなかったときに高知県の業者に切り替えた。それだけで数百万円、高知県に残るようになった。

ちょっとだけ、この話をするときにいつも注意しないといけないのは、例えば市町村とかの自給自足、100%自給自足をやったらいいと言っているわけではないんです。だったら宮崎の業者さんどうするのよとか、そういう話は必ず出るんで。

ただ、今日本の地域はあまりに外に頼りすぎている。なのでバランスを取り戻そうと、もう少し自分たちで自分たちの経済をやり直そう。これが私が言っていることです。あまりにもバランスが外に頼ってるから、うちでもちゃんとやろうねっていう、そういう感じです。

【かつての地域通貨は設計がうまくできていなかった】

前置きをした上で、地域通貨ってみなさんどれぐらい聞いたことありますかね。日本円だったら日本のどこでも使えますよね。地域通貨はその地域でしか使えないというお金です。例えば岡山通過だったら岡山でしか使えない。その地域限定の通貨です。それはさっきお話があったように、その地域でしか使えないので地域の外には出て行きません。

例えば海士町には地域通貨があるんですけど、それは私が持って帰っても他では使えないんですね。海士町に行かないと使えない。海士町に行かないと使えないってことは海士町の支払いに使うから、絶対に地域の中でまわるんですね。

そういった意味で言うと、地域通貨を日本円と同じようにある程度使っていくと、外で買うしかないものは日本円を使えばいいし、地域の中で買えるものは地域通貨を使えばいいし。海士町はそんな感じになってます。

『エンデの遺言』という、日本で地域通貨のブームに火をつけたテレビ番組があって、そのあと日本の政府が応援していたこともあって、一時は400~700ぐらい日本でも地域通貨が生まれました。

でも今そのほとんどが続いていない。あまり設計がうまくなくてですね、続いてないんですが、いくつか地域通貨を使い続けているところがあります。海士町はわりとよく使われてるほうだと思いますが、どこのお店にいっても、ホテルでも民宿でも、地域通貨が使えます。なので海士町の人たちは日本円があるときは日本円、地域通貨しかないときは地域通貨を使って買い物したりしています。海士町の町役場の職員さんのボーナスの一部は地域通貨で払われます。

【地域通貨をうまく循環させるには】

それともう一つ、福島の矢祭町(やまつりまち)ってところで地域通貨をいい形で使っていて、そこは町の税金、町税を払うときに地域通貨が使えます。なので日本でなぜ地域通貨がうまくいかなかったかというと、地域通貨を発行するのは簡単なんです、「ボランティアしたらあげます」とか。だけど出口がない。使える場所がなくてほとんどのところがうまくいかなかった。

海士町はどの店でも使える、矢祭町では税金まで払えるということで、出口をしっかり確保すると循環しますよね。ほんと、撒くのは簡単ですけど、そのあとが続かないということがありました。

さっきお話しをしたトットネスも、トットネスポンドという地域通貨を使っています。なので「地域通貨使えます」というポスターやステッカーがですね、町のお店のあちこちに貼ってあって。

トットネスは去年かな、電子磁気通貨を発行して、今はお札とかじゃなくても電子的にピッていうやつで磁気通貨が使えるようになっている。そのお金は絶対外には出て行かないので、トットネスの中でまわり続ける。

お金の機能って交換機能ですよね。海彦さんと山彦さんがいたときに、お互いほしいものをその場で交換できればいいけど、そうじゃなかったとき。持ってきたもの腐っちゃうよねっていう。そのときまずお金に交換する。お金を持ってたら次にほしいものがあったときに買えますよね。

交換とか価値の保存というのがお金の機能なんですね。だけど今は投機、お金がお金を生むためにお金が使われています。なので貯めといたほうがいいとか、投機に使ったほうがいいとか。

【いろんな通貨の仕組みがありえる】

で、面白い実験。実際にそういう地域通貨があるんですけど、貯めとくと価値が減っちゃうという地域通貨もデザインできます。なのでもらったらすぐに使わないと、例えば1ヶ月持ち続けていると価値が何%ずつ減るっていう設計ができるんですね。

通貨って私たちが生まれたときからあるから、それが当然のようだけど、わりと歴史が短いんですよ。通貨がない時代も長かったし、昔は物々交換だったしね。なので今の仕組みがすべてではなくて今たまたまこうなっているというだけなので、違うお金のあり方っていくらでもつくれる。

持ち続けていると価値がどんどん下がっちゃうデザインをした通貨だと、みんな貯めておかないですね。だって価値が減っちゃうから。だからもらったらできるだけ早く使う。それを導入した地域だと、流通量がすごく増えました。それは地域の経済を活発化してるということですね。お金も、今の姿でなくてもよいということを考えつつ、いろいろつくっていけたらなと思っております。近藤さんどうですか?

【昔の姿を学び、良いところを再発見していく】

●近藤さん/日本って恐ろしいぐらい自給率が低くて、食料自給率っていうのは先進国で最下位レベルで40%切ってますね。食べ物がほとんど日本のものじゃない。でも日本が鎖国してたとき、食料自給率100%ですよね。その中で食べ物がつくられてきた、つくられてる土壌の中で文化芸能っていうものがあそこまで発達して、蚕さん飼って、服も全部自給して、人糞を肥やしにしてすべてエネルギーにしてたし、っていう超循環の世界がそこにはあって。

それに感銘を受けた人がパーマカルチャーっていう言葉で始めたりとか、マクロビオティックもそうなんですけど、身土不二っていう言葉に感銘を受けた西洋人から西洋に伝わって、逆輸入的にマクロビオティックって言葉で入ってきてるんですけど、これ全部、日本由来で。

今、自給率40%にあっという間になっちゃったんですけど、100%を達成してた知恵がまだいろんなところに残っていて、それを僕たちの世代は、自分のじいちゃんがギリギリそんな生活してたな、というぐらいだけれども、今の若い子たちは循環社会に晒されてない、そんな中で再発見しなくちゃならないというところだと思うんです。

昔に戻れっていう話ではなくて、僕は再発見って言うんですけど、どういう形がいいのかっていうのを昔の姿から読み取って、じゃあ今ならこういう形っていう。エネルギーのことも、昔はできなかった小水力の発電システムも可能。お金さえあれば、みんなの意識さえそっちにいけば可能。同じような道路工事とかにお金をいっぱい使っているような中で言うと、あっという間にできちゃうと思うんで。

【食糧自給率が上がれば本気の問題意識が生まれる】

その中でも自給率を上げない限り、僕はほとんどの問題が解決しないんじゃないかと思っていて、原発にしろ、ゴミ問題にしろ、洗剤の問題にしろ。やっぱり食べ物をつくっているっていうのが基礎になる。

食べ物をつくっていれば土地と向い合ってるんで、例えば「ここを汚してほしくない」っていう本気の怒りとか感情が出てくるんですけど、土地と分離したようなライフスタイルをしていたら、原発も「隣りに建たなければいいか」っていう感性になるけど、モノをつくったり土地と向い合ってるからこそ、本気の反対運動ができる。

山口県の上関町(かみのせきちょう)に上関原発が建とうとしていて、ここは漁師が反対するんですね。祝島っていう島の人たち全員反対派。国はバッと2億円とか振り込んでくるんですよ。それを受けとっちゃったら反対できない。

でも祝島は、お金じゃないと。魚が捕れないと俺らは暮らせんのじゃって、理由がはっきりしてて。全員漁師とか農家なので、全部つき返すわけですよ。つき返して反対運動してきたお陰で、ずっとこの瀬戸内海に原発は建っていません。そして3.11で一応建設が頓挫したという感じなんですけど。

やっぱり守る理由がない限り反対はできないし、でも守る理由のためには自給率っていうのが根底にあって、それで初めて問題意識が生まれる。すべての問題を解決するベースとして、自給率、食べ物を自分たちでつくるっていうのが大事なのかなって思います。

【電子通貨時代に向かっている】

●三宅さん/経済が世界的な潮流としてこれからどうなるのか。結論からいうと、電子通貨化が圧倒的に進んでいくと思う。これは知らない方はびっくりすると思うんですが、デンマークは去年の段階で紙幣の発行をすでにやめてます。2030年からはもう使えないよっていう法律が国会で通っています。すでに現状、デンマーク内の決済は8割方、電子通貨でされているんです。

だから旅行者しか紙幣を使ってない。さらに言うと紙幣の受け取りを拒否する権利が商売をする側に与えられています。法的に。かなりの勢いで、要はお金のない世界をつくろうとしてるんですね。紙幣のない世界。

当然ながらこれは国家間のやり取りとかにも波及してくるんで。現金主義が世界で一番強いのが日本と言われてますし、恐らくこの潮流に最後まで乗らないのも日本である可能性が高いです。ただ最後の部分で、取引き上どうしたってうちは紙幣を使ってないから日本円で払われても困るっていうような事態が、これ当然政府や日銀の人たちなんかは想定内で動いているとは思うんですけど、どうなんですかね。

●枝廣さん/流れとしては通貨だけではなくて、電子国家、エストニアとかが一番先頭を走っていると私は聞いてますけど、あらゆることを電子的にやると、そういう時代が近づいてきているのはその通りだし、おっしゃるように日本はまだクレジットカードも使えないお店がいっぱいあって、海外のお客様から私もよく苦情を言われますが、流れは電子通貨に向かっている。

だけどそれにはいろんなリスクがありますよね。なのでそれを見極めるまで待とうという動きももちろんあるし、電子通貨化されると既得権益を失う人たちも当然いるので、そういったあたり。ただ日本の少なくとも多国籍企業は世界を舞台にやっているので、日本政府がどう考えているか、ではないところで動かざるを得ないですよね。

●三宅さん/そうですね。現物のお金が消えていく潮流にあると捉えていいと思います。そうなったときに例えばタンス貯金はできなくなりますよね。ブラックマーケットみたいな、犯罪絡みのお金っていうのも管理しやすくなると思われます。ただデンマークでは、ネット上の詐欺が増えてたので犯罪率としては変わっていないそうです。これは人間の悲しいサガかもしれないですけど。

ただ、かなりのものが電子化されたと想定したときに、それでも僕らは、じゃあみんな自分の財産を100%電子化するんだろうか?って思ったときに、僕はしないと思うんですよ。

実価値とか、実経済ってなんだろうということが、ネガティブな意味じゃなくて、僕はすごい発達すると思うんです。例えばものすごい物々交換サイトができるかもしれないし。また、地域通貨というものがもう一回、価値の担保として、例えば2割は絶対に地域通貨にしとこう、食べ物を買うって考えたらそっちのほうが安全性が高いとか、いろんな判断がそこで生まれると思うんです。

僕も想像しきれないんですよ。こうなるんかな、ああなるんかなと思ったりする。とにかく実価値とは何かということが、すごくいい意味でも悪い意味でも問われる時代が来るなと思ってるんで、けっこうこの小商い、地域経済っていうのと、グローバルな電子通貨とか、通貨の形態がどう変化していくかっていうことは、結局は切り離して話せないなと思っています。

●近藤さん/現金主義が日本でめっちゃ強いっていうのは、背景として何か理由があるんですか?

●三宅さん/1万円札は偽造されない通貨として世界で有名なんですよね。日本人の1万円信仰は、1万円札の技術力の高さというのが一つ。もちろん国家の政治のあり方もありますよ。国家の安定や経済の安定というのはありますが、1万円札のクオリティーの高さを含めて、これは日本人だけが持っている信用創造ですからね。日本人だけが1万円札を持っておきたいっていう。だからお金って不思議なものですよね。

【お金の重要性が減ってきている】

●枝廣さん/今お話があったように、お金ってほんとに不思議なもので、日本人全員が明日から「日本円を信じないようにしましょう」と言ったら、一挙に日本円は通用しなくなりますね。ただの紙切れですからね。みんながお金として通用すると信じてるから通用しているだけで、その信用がなくなればただの紙切れになって使えなくなるという。

でももう一歩進めて、今私が今後の動きとして見ているのは、お金そのものがたぶん役割を終えていく時代だと思っていて。それが電子であれ紙幣であれ。

それはいくつかの理由があって、一つはお金が余る時代になってるんですよね。日本も地銀さんとかで言うと、預貸率というんですけど、預けてもらっているもののうち、どれだけ貸し出ししているかっていう、その機能が全国的に低いんですね。それは地銀さんがさぼっているからではなくて、貸し出したいと思うような魅力的な投資先があまりないんですね。

そういった意味で言うとお金がもう余っている。昔はお金がなかったから、一生懸命お金を儲けようとしていたけど、今はどっちかっていうとお金が余るようになってきた。もう一つは、特に若い人たちを中心に、もう買いたいものはない、食べるものとか着るものとか最低限のものがあればいい、昔みたいに「いいものを持っていることが自分の価値だ」とか、例えば車を買ってマイホームっていうような、かつてのような、何かを手に入れるっていうのではなくなっている。

ということで相対的にお金の重要性が減ってきている。これは日本だけじゃなくて他の国でもそうです。そのときに、お金じゃなくて何が今度は大事な尺度になるか、それがさっきおっしゃった価値なんですよ。そのものの価値、それをたまたま今までお金で計ってました。お金で交換してました。だけど別にお金を介さなくてもいいですよね。そういう時代に入ってきている。

【評価・信頼という価値】

『お金2.0』を購入した人は、そのあたり書いてあるのをご覧になったと思いますけど、例えば今だと、ツイッターでたくさんのフォロワーがいるとします。その人はお金が一文もなくても、ツイッターのフォロワーに呼びかければクラウドファンディングでお金を集めようと思ったら集まるし、誰か一緒にやろうといったら一緒にやる仲間は集まるし、誰か知恵貸してといったら知恵も集まる。お金が一文もなくてもプロジェクトはできちゃう。それが今の時代なんですね。

そのときに何が大事かというと、そのツイッターに対する評価、信頼ですよね。お金ではなくて評価とか信頼が資本っていう、評価資本っていう言葉を使う人も今は出てきています。なのでそうなってきたときに、今は便宜上まだお金を使っているし、これからもお金を使うと思うけど、お金が第一という優先順位がきっと落ちてくる。

そうしたときに、私たちのような地元に根ざしたソーシャル小商いをやろうという人たちはどういう役割を果たせるか、どういう価値を提供できるか、そのへんはすごく面白いと思いますよ。

【ベーシックインカムについて】

それともう一つ並んで話が出ているのが、人工知能とロボットが増えるようになると、人間の仕事のある部分は置き換えられていく。これはみなさんよくご存知かと思います。すべての人間の仕事がなくなるわけじゃないけれど、論理的に考えて、コンピューターでプログラムかけるものは、もう人間がやらなくていいっていう、そういう時代になりますよね。

そのときに、今、経済学者が何を心配しているかというと、失業者が増えます。それはもちろんその人たちにとっては不幸なことなんだけれども、経済的に問題なのは、失業者は買い物ができないですよね。お金ないですから。購買意欲のない人たちが増えると経済が止まるということを心配しています。

経済をまわし続けるには、人々に購買意欲を持ってもらわないといけない。お財布が空になると買い物できませんからね。なので新しいテーマとして出てきているのが、ベーシックインカムです。

ベーシックインカムというのは、働いている、働いていないに関係なく、1人例えば1ヶ月8万円とか10万円とか、最低限生活するのに必要なお金を全員に配るという、ベーシックなインカム収入。これを全員に出すという考え方なんです。

もともとベーシックインカムは、貧困対策とか、失業して職がなくなってもちゃんと暮らしていけるようにとか、母子家庭でも暮らしていけるようにとか、そういった社会保障の意味で言われてたんですけど、昨今出てきているのは、AIで仕事がなくなる人が増えて、お金がないから購買意欲が減って、経済がまわらなくなるのは大変だから、ベーシックインカムでみんなにお金を配って、買い物できるようになってもらって経済をまわしていこうと。

じゃあそのベーシックインカムのお金ってどっからくるのよと、それはそれでいろんな議論があるんですけど、もしかしたらお金のために働かないといけない時代は終わるのかもしれない。そうしたときに、私たちが働いてるのってお金のためだけではないですよね。

もちろん食べ物を買うといったこともあるけど、ある場所に所属しているとか、ある場所に認められているとか、自分の自己実現に繋がっているとか、マズローの5段階欲求説をすべて満たすのが私は「仕事」だと思っていて、基本的な欲求の「食べ物が買える」というところが満たされても、たぶん5段階欲求の上のところどうする?っていう話になります。

なので、お金の重要性が減ってくるみたいに、「働くとは何か」というところもきっと変わってくる。そういった時代に私たちはこれから向かっていくのかなと思っております。