今回のテーマ

里まち暮らし〜水と緑のネットワーク

開催日時:平成30年12月15日
開催場所:ジョンブルプライベートラボ

【話し手】
加藤禎久「世界で進むグリーンインフラ」
四井真治「暮らしの仕組みとパーマカルチャー」

【聞き手】
枝廣淳子(環境ジャーナリスト)

【進行】
青江整一(くらしのたね/ミナモト建築工房代表)

第一部

●青江/この「くらしのたねまきシンポジウム」は全4回を計画しておりまして、今回が第3回目です。テーマは「里まち暮らし・水と緑のネットワーク」。

全4回が終わった後に、みんなでその内容をまとめて岡山市に提案していきたいと思っています。市民が考えるまちづくりということで、自分たちが暮らす町・働く町を、よりよい町にしていきたいという思いでやっています。

北長瀬駅はこれから再開発が進んでいきますが、ここで暮らす人々や働く人々が、もっと暮らしやすい町・働きやすい町にしていくには、行政に頼るだけではなくて、僕たち一人ひとりが関わっていくこと、自分たちに何ができるかということを、みんなで考えて動いていくことが大切なんじゃないかなと思っています。

行政の側では、岡山市が「緑の基本計画」というのを打ち立てています。今日は岡山市の庭園都市推進課の宮内さんに来ていただいたので、まず始めに、その「緑の基本計画」というのがどういったことなのかというのを説明してもらおうと思います。

この北長瀬エリアはその中でも重点地区として指定されています。そのあたりを共有した上で、今日のゲストである岡山大学の加藤先生、それから山梨から来られたパーマカルチャリストの四井先生にお話をしてもらおうと思います。まずは宮内さんからお話をお願いします。

【岡山市「緑の基本計画」について】

●宮内さん/岡山市の庭園都市推進課の宮内と申します。まず「緑の基本計画」ってなんだ? っていうことなんですけれども、これは「都市緑地法」という法律に定められておりまして、各自治体が緑を保全したり、あるいは緑化を推進することを計画に定めることができると言われているものです。

全国で約半数の自治体が「緑の基本計画」を策定しておりまして、岡山県で言うと岡山市と倉敷市、それから津山市、この3市が「緑の基本計画」を策定しております。で、我々岡山市は平成13年に岡山市の基本計画を定めまして、平成28年12月に今の計画に改定をいたしました。

「活力と笑顔が集う水と緑のあふれる桃太郎のまち」というキャッチフレーズがついています。これは岡山市第6次総合計画という一番上位の計画がございまして、そこで謳っているキャッチフレーズが「未来に躍動する桃太郎のまち岡山」というものになっているところから、つけられたものです。

岡山らしさとか、岡山の誇るべきものを一番有名な桃太郎になぞらえてもっともっと発信していこうじゃないかということで、この「桃太郎のまち岡山」というのを、今、岡山市として使っています。

この「緑の基本計画」を平成28年に改定した時に、基本方針として5つのことを挙げているんですけれども、全部言っていると時間がありませんので3つに絞ってお話をさせていただきたいと思います。

改定した時に、3つの大きなポイントを押さえました。まずは平成13年当時に作ったものから踏襲することとして、原風景である「岡山ガーデンリング」を守る、次世代につなぐという点。岡山ガーデンリングって何だ? という話になるんですけれど、また追々ご説明します。

改定の時に新しく付け加えたものとして、「量から質の向上へ」。要は量ばかり増やしてもしょうがないよねっていう。それから「身近な緑を使いこなすパークマネジメントの推進」。また新しい言葉が出てきましたけれども、これもまた後でご説明させていただきます。

【岡山ガーデンリング】

まず、岡山ガーデンリングって何だ? ということなんですけれども、これは前の計画にも書かれている言葉でして、岡山の中心部を取り囲むように、周辺4山と言いまして、操山、半田山、京山、矢坂山、それから近郊5山と言いまして、芥子山、龍ノ口山、笠井山、吉備中山、貝殻山と。それらが市の中心部を取り囲むようにあるよという。岡山ガーデンリングと名付けてこれを次世代まで守っていこうじゃないかということを言っています。

それと同時に今回付け加えましたのが、合併しました御津とか建部、吉備丘陵の山々を合わせて、岡山市の大事な緑の骨格だよねと、これを今後も守り、つなげていこうということを言っております。

【量から質の向上へ】

続いて、「量から質の向上へ」。今、右上にグラフが出ていますけれども、これは政令市、北は札幌から南は熊本まで、20市+東京を含む1人当たりの都市公園面積というものをグラフにしたものです。

岡山市はお隣の神戸市に続いて政令市で第2位の、1人当たり公園面積を持っています。ただこの数字というのは1人あたりですので、数字のカラクリからいうと、人口が少ないほうが当然大きくなるということですよね。岡山市は政令市の中では、20市中19番目の人口ということですので、人口が少ないぶん、当然1人当たり公園面積も大きくなる、というところであります。

一方で、先ほどもご紹介したように周辺4山や近郊5山が実は公園面積に含まれているというのもありまして、かなり大きな面積を持っていることになっている。例えば、人口が非常に多い東京都区、950万人ぐらいいらっしゃいますけれども、そこだと1人あたり3平米ぐらいしかない。

政令市で一番大きな横浜市でも350万人ぐらいいるけど約5平米ぐらいしかない。日本はこういう状況なんですけれども、一方で海外に目を向けますと、東京と同じぐらいの規模であるニューヨーク、860万人ぐらい人口いますけれども、1人当たり公園面積って18.6平米あるんですね。

もっとすごい町になると、スウェーデンのストックホルムという町は約90万人ちょっといますけれども、1人当たり公園面積は80平米、ものすごい数の公園面積を持っているということで、日本の中では岡山市はまずまずの数字なんですけれども、海外に目を向けたら、まだまだ公園の面積が足りていないとも言える。

ただし、日本はこれから人口の減少世界に入っていきます。なので、いたずらに量を増やすというのではなくて、これからは、今ある公園の質を高めていこうじゃないかと、そこにシフトしていこうとしています。

今ある公園も高度成長期に作ったものが多くて、30年を超えるものがほとんどになってきている、半分が30年以上になっている状況ですので、これからはもっともっと市民ニーズに合わせて再編したり、再整理していく必要があるということで、二つ目のポイントとして、「量から質の向上へ」を謳っています。

【パークマネジメントの推進】

次に三つ目ですけれども、「身近な緑を使いこなすパークマネジメントの推進」と書いています。パークマネジメントってまた新しい言葉なんですけれども、これは平たく言うと、我々行政だけじゃなくて、周辺に住まわれている、公園を利活用したい民間の人たちと一緒に公園を運営していこうという取り組みのことを、パークマネジメントと言っています。

岡山市においては、例えば西川緑道公園の「満月バー」ですね。今まで公園の中でバーをやるなんてなかなかなかったんですけれども、こういう取り組みも約7年前から始まって、全国でもかなり優良な事例として紹介されています。

なんで民間と一緒にこういうルール作りとか運営をしていかなければならないかというと、これまでの公園というのは我々行政がルールを作ってみなさんに守ってもらおうとしていました。そうすると、たいがいいろんなところから苦情が来るんですね。子供の声がうるさいとか、ボール投げしたら危ないじゃないかとか、犬が入ってきたら犬の嫌いな人は困るとか、いろんな苦情が舞い込んできます。

我々行政も苦情を受けるとどうするかっていうと、それを全部禁止にしちゃうんですね。禁止にすれば苦情が来なくなる。禁止しちゃえと。でもそうするとその公園に来る人は減っていって、どんどん廃れていく、興味もなくなっていくっていう悪循環が発生するんじゃないかと。

で、やっぱり公園ってもともとみんなのもの、市民のみなさんのものなので、我々行政だけが運営するんじゃなくて、公園を使う人たちと地元の人たちとが一緒になってルール作りをやって、要は行政に押し付けられたルールじゃなくて、自分たちが決めたルールなので、一緒になってきちんと守って、もっともっと公園を良くしていきましょうと。こういった取り組みを岡山市はこれから進めていきたいということを、「緑の基本計画」の中に挙げさせていただいております。

【「緑の基本計画」の目標水準】

「緑の基本計画」の中に目標水準というのを定めていまして、3つあります。一つは、先ほどご紹介したように1人当たり公園面積ですけれども、平成27年度時には16.57という数字でしたが、10年後を見据えています。10年後平成37年を見据えると、16.48になることを目指している。減っちゃうんですけれども、これは先ほども言ったようにいたずらに公園ばかりを増やさないということで、1人当たり面積は減ってもしょうがないというふうに捉えています。

二つ目の水準として、市民意識調査という調査がありまして、その中で、公園とか緑地の整備に満足と思っている人が平成27年当時で40.8%という数字でした。それを10年後には50%、約半分の人が満足だと思ってもらうようにしたいなと思っております。

三つ目の指標はパークマネジメントプラン策定の公園。先ほど申し上げたパークマネジメント、実際にやっていく公園を平成27年当時はまだ0でございましたけれども、その5年後、平成32年には3公園、これはほぼ達成できそうな状況です。最終的な10年後には5公園まで広げていきたいというふうに思っているところです。

【「緑の基本計画」の推進重点地区】

最後になりました。先ほど青江さんからもご紹介ありましたけれども、「緑の基本計画」の中に緑化推進重点地区という3地区を岡山市は定めております。一つ目は中心市街地、岡山駅を中心とした約1キロのスクエアを重点区域として定めていると。

二つ目、西大寺幸福のまちづくり地区ということで、西大寺緑化公園という比較的大きな公園が整備されていて、今、東区役所などがあるあたりですね、あのあたりを一つエリアに定めている。

三つ目、先ほどご紹介あった西部新拠点地区ということで、北長瀬駅とか操車場跡地のあたりを中心として370ヘクタールでしたかね、の地域を緑化重点地区として定めていると。残念ながらこの問屋町は入っていないんですけれども、問屋町のちょっと北、境目までが西部新拠点の重点地区となっています。

今、操車場跡地にも新しい公園を作っておりまして、緑もまたこれから増えていきますけれども、この区域が緑豊かで暮らしやすい町になっていけばなあと思っていますので、これからも岡山市の緑化推進についてまたご理解とご協力をいただければ幸いと思っています。ちょっと駆け足になりましたけれど、これで私からの説明を終わらせていただきます。

●青江/ありがとうございました。北長瀬の駅前で公園の整備が始まっています。そこの行政の担当が宮内さんで、市民と協働して公園を作っていこうという熱い思いを持たれています。僕は公園を利活用する市民の会の代表をさせてもらっているんですけれども、もっともっとこの「緑の基本計画」をベースにやっていけたらなあと思っていまして。

ここからメインの方に入っていきたいんですけれど、まず枝廣淳子さんにマイクを渡していこうと思います。枝廣先生はこのシンポジウム1回目から4回目、すべてを通してファシリテーターとして、そして聞き手として入ってくださっています。

環境ジャーナリストという肩書で活躍されていて、まちづくり、北海道の下川町とか島根の海士町とか、地域の地方創生というところで活躍されている方です。ゲストの方々については本題のところで話になるんですけれども、キーワードとしては加藤先生は「グリーンインフラ」、それから四井先生は「パーマカルチャー」、そのあたりのお話を聞けたらと思います。ここから枝廣さんにマイクを渡したいと思います。

【持続可能な開発目標「SDGs」】

●枝廣さん/みなさんこんにちは。今ご紹介いただきました枝廣淳子と言います。このシンポジウムに、最初の企画の段階から関わらせてもらっています。国連が定めた持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」、それの11番目の目標がまちづくりなんですね。国連が、世界を本当に幸せで持続可能にするには17の分野で頑張っていかないといけないと定めています。

例えば貧困をなくそうとか、飢餓をなくそうとか、温暖化を止めましょうとか。世界中で大事な目標を17決めていて、日本ももちろん国連加盟国ですし、いろいろな取り組みが、地域でも企業でも進んでいます。

この一連のシンポジウムはSDGsのゴール11「まちづくり」を一つ念頭に置いて、じゃあ北長瀬は持続可能な地域づくり・まちづくりってどうしていくのか、いろいろな視点から考えようと進めています。

第一回は地域防災ということで、集中豪雨とかですね、今いろいろな自然災害が起こるようになってしまっています。その時に地域として、そういうことがあっても立ち直れるしっかりした地域をどうやってつくっていくのか、そういった話をしてきました。

第二回は小商いということで、地元の経済を取り上げました。どんな町もやっぱりちゃんと仕事があって、お金がまわっているということがとても大事なので、その中での事業者の役割、消費者の役割、そんな話をしました。

今日は、町を支えているインフラ、インフラといっても橋も道路も含めていろんなインフラが町の土台となっている、それは土も含めてですね。それを考えていこうというのが今回第3回です。ちなみに次回の第4回はエネルギーを取り上げます。どの町もエネルギーがなくては動きませんので、それを考えていくというのが第4回です。

先ほど宮内さんのお話を伺っていて、公園という字、みなさん想像していただくと、「公の園」と書きますよね。公っていうのは、政府や官という意味ではなく、みんなのっていう意味ですよね。

もともと公園っていうのはみんなが楽しむ場所、みんなが集まる場所、なんですよね。なのにそれを今は市役所とか政府とかが管理していることが多いけど、パークマネジメントというのは、もう一回、官の園だったのを公園に戻していこうという動きなのかなとお話を聞いていました。

「緑の基本計画」でも、緑が大事です、一人あたりはこうです、そういう話がありました。今からのお話は、ゲストの二人にいろいろお話を伺いながら、なんで緑が大事なんだろう、それを掘り下げていきたいと思っています。

緑が大事って言って反対する人はいないと思うんですが、緑って言ってるのはなんなんだろう、緑っていうのはどういう役割を果たしているんだろう。この地域のまちづくりを考える時に、どういう役割を果たしてほしくて緑を考えていくのか。

緑を作るのは土ですよね。土がないと緑ができない。土ってどんな役割を果たしているんだろう。こんなことを考えていけたらと思っています。最初にグリーンインフラということで、加藤先生にお話を伺っていこうと思います。では加藤先生お願いします。

【グリーンインフラについて】

●加藤さん/みなさんこんにちは。岡山大学の加藤禎久と申します。私は普段、岡山大学津島キャンパスで日本人の学部生を対象に、グローバル人材の育成と運営に携わっています。日本を舞台に、世界と向き合って戦っていける学生を育成するということなんですけれども、岡山大学の副専攻のプログラムで「グローバル人材生特別コース」というのがありまして、全11学部の学生が毎年100人ずつ在籍しています。

今日は私の研究についての紹介になるんですけれども、「グリーンインフラ」という考え方を紹介させていただきたいと思います。みなさんおそらくグリーンインフラって言われて、よく知らない方が多いと思うんですけれども、グリーンインフラだからインフラ、いわゆるその道路とか橋とか上下水道とか、鉄道とか、そういうのに関係するのかなと、でもグリーンって付いているから緑…、緑のインフラってなんだろうって感じですよね? グリーンインフラについて、少し事例を踏まえて最新の情報を紹介させていただきたいと思います。

日本では、グリーンインフラ研究会という、官と民と研究者、三角間の横断的な研究会が2014年に立ち上がっています。もともと私の知人の、環境省から国交省に出向していた湯浅さんという人が政府の政策としてグリーンインフラを推進していきたいということで、個人的な勉強会を立ち上げたのが初めになっています。

私も自分の研究で2000年前半ぐらいからグリーンインフラにつながる考え方を研究してきましたので、初期のメンバーとしてこの研究会に参加していました。昨年、日本で初めてグリーンインフラについてまとめた本が出ました。私も一章書いていまして、編集委員としても関わったんですけれども、『決定版!グリーンインフラ』という本が出ています。

【グリーンインフラは幅広い定義を持つ】

じゃあそのグリーンインフラっていうのは何か、簡単に言いますと、自然の持っているいろんな機能を賢く利用することで持続可能な社会と経済の発展につなげる、そうしたインフラとか土地利用計画というものを、グリーンインフラと定義しています。

非常に幅広い定義でして、あえて入り口を幅広く定義しているんですけれども、自然の持つたくさんの機能というのは、例えば水の循環だったりとか、窒素、リンなどの栄養の循環とか、生物間の相互作用とかが例になるんですけれども、学術的には「生態系サービス」と言われています。それを土地利用などにうまく取り入れていこうという考え方です。

例えば多自然型の川づくり、緑の防潮堤、都市公園緑地の整備、生物共生などが、グリーンインフラの事例になります。こういった社会資本整備とか土地利用などのハード・ソフト、両面をもって自然環境が有する多様な機能をうまく活用して持続可能で魅力ある風土づくりや地域づくりを進めていくという考え方です。