【持続可能な開発】

●枝廣さん/加藤先生、そういった点でグリーンインフラっていうのを考えた時に、自然の力を活用していろいろなものを提供する、その時にこれまで私たちが好き勝手やってきた、それを自然の力を利用してできるだけやっていきましょうっていう話なのか、それに合わせて社会の在り方も変えていきましょうという、そこまでグリーンインフラという概念に入っているのか、そのへんはどうなんでしょうか?

●加藤さん/そうですね、やはり最終的には社会の在り方や、私たちのそれぞれの暮らしを変えながら、社会全体、日本全体の在り方を変えていくという思想まで幅広く含まれてくると思います。

グリーンインフラはそれくらいパワフルな概念だと思っていまして、講演前に四井さんとも少し話したんですけど、今、日本を含めて世界的に大きな転換期に来ていると思っています。地球の気候変動の影響がこれからもっと強く出るっていう国連機関の報告書も出ましたし、エネルギー問題についてもそうです。

私が四井さんの話で感銘を受けたのは、まずは各家庭で個人で何ができるんだろうかっていうこと。それを一つでも実践していくことによって、そういう人たちが増えれば社会も変わっていくのかなというふうに思いました。

●枝廣さん/グリーンインフラという言葉の定義に関わることかもしれなくて、意地悪な質問かもしれないのですが、これまでやってきた自然の保全とか緑化とどう違うんですか、という質問はたぶんたくさんあると思うんですが、それにはどんなふうにお答えになります?

●加藤さん/そうですね。発想の転換だと思うんですけども、これまでは熱帯雨林の伐採だとかオゾン層の減少とか、石油燃料によって二酸化炭素が大気中に排出されているとか、そういう自然破壊に対して「環境を守らないといけない、保護しないといけない」っていう考え方と、「とは言っても経済成長は必要で開発しないといけない」という考えと、環境を保護するか、経済発展を優先して開発するか、その二つの、ある意味両極端の対立と捉えられていたと思うんです。

でも少し発想を転換して、二項対立ではなくて、もっと全体として環境も保護する部分は保護するし、うまく資源を活用して生活を豊かにしながら、「持続可能な開発」っていう言葉が出てくるんですけど、うまくバランスを取りながら社会全体として進めることができないだろうか、というのがそもそものグリーンインフラの出発点なんですね。

【マイナスを減らす/プラスを作る】

●枝廣さん/ありがとうございます。例えばですね、ハリケーン・カトリーナが大きな被害をニューオリンズで出したのですが、ニューオリンズにはもともと湿地があったんですね。で、湿地を干拓して、開発しちゃったんですよ。なのでカトリーナが来た時は湿地はなかったんです。で、あの時に湿地があったらあんなに被害が出なかっただろうと言われています。

つまり、湿地があればハリケーンなどの衝撃を受け止める力になったんですね。だけどその湿地を失っていたので、直接都市に被害が来ちゃった、なのであれだけの被害があった。実は生態学者の中で、あのカトリーナが来る前から、このままだとハリケーンが来たら被害が大きくなるので湿地をもう一回戻そうという提案があったそうです。だけど、それを誰も聞かなかった。

経済開発のためには湿地よりも開発の方が大事だっていう考え方ですよね。それで結局、湿地を失ったので大きな被害が出た。なので、あの湿地がグリーンインフラだという言い方ができると思います。

私、グリーンインフラは、14〜15年も関わって勉強しているので、実際いろんな疑問もあるのですが、グリーンはインフラだと。例えば湿地とか手付かずの山とかはインフラなんだと。それのありがたみを私たちは分かっていないから、せめて壊さないようにしようよ、そういう考え方ももしかしたらグリーンインフラなのかなと。

で、先ほどの加藤先生の話を聞いていると、例えば路面電車のあそこのところを緑化します、それは、どうせインフラをやるんだったら、少しでもグリーンにしてCO2を吸収するとか、そういうことも大事だよねというのもあると思います。

で、もともと自然って人間を守る強さがあって、それを私たちが壊してきた、その時にできるだけ邪魔しないように、壊すのを少しでも抑えようという考え方があって、先ほどお話にもあったけど、透水性の道路。本当は舗装しないのがいいですよね。でも、舗装しちゃうんだったら水が下にいくような舗装にしましょうと。

同じように川を堰き止めてダムを作ります、ほんとはダムなんかないのが自然の力には一番いい、だけどダムを作らないといけないんだったらせめて魚道を作って魚が川をあがっていけるように配慮しましょうと。

なので、グリーンインフラの話を聞いていると、人間が自然破壊するんだけど、そのマイナスを少しでも減らしましょうっていうのもグリーンインフラに入ってしまっているなと思っています。

そういうことで、四井さんの話は人間が暮らしていることが自然破壊じゃなくて、プラマイゼロではなくて実はプラスを作り出している。土が豊かになってきたっていうのは凄いことだと思うんですよね。

人間が暮らしていることが自然に対してマイナスに影響を与えるから、それをできるだけなくすっていうふうにこれまで考えていたけど、人間が暮らすことが自然を豊かにするっていうのが、達成されているのが凄いなと思いました。

川を堰き止めないといけないけど魚があがれるようにしようねとか、そういう配慮をすることも大事だし、だけどもしかしたら町づくりの中で、ここは舗装を取っちゃって元に戻そうとか、そういうこともできるかもしれない。

いろいろ今日は考えさせられるなーと思ってみなさんのグループディスカッションを見ていました。みなさんの方から、やってみてのコメントとか気づきとか質問とかどうでしょうか? 何か思われたことはありませんか?

【ごみの分別を実現するために】

●参加者/岡山の北区に住んでいる者です。ありがとうございました。岡山市では、今、ごみはですね、焼却ごみってことで全部一括で出しているんですけども、今日の先生のお話でしたら、生ごみは貴重な資源で、例えばそういうふうに分別しましょうという場合には市民の意識改革と言いますか、反対もあると思うんです。そういう場合にどういうことをキャンペーンと言いますか、どういうことをしたら分別とかが実行できるか、そのヒントみたいなものがありましたら教えていただけますでしょうか? お願いします。

●四井さん/例えばですね、過去に小浜市から生ごみコンポストを作る講習会をやってくれと言われたことがあります。ごみ処理場の能力にも限界があるし、税金を節約することにもつながりますし、みなさんの暮らしの質を高めることにもなる。そういう意味でコンポストの作り方、分別の仕方っていうのを段階的に教えていきました。そうするとみなさん分別するようになります。あと、堆肥は作るとだいたい臭いが出て失敗しちゃうんですよ。それを失敗しないような、しっかりした講習会なり、情報共有できるような状況を作ったほうがいいと思うんですよ。

●参加者/大変ありがとうございました。

●加藤さん/私の家でも分別をしていまして、普段みなさんの家庭ですぐできることだと思うんですけど、長年の習慣を変えるのは、なかなか難しいんですよ。いきなりごみを分別しろって言われても、分別したほうがいいって分かっていても、なかなか行動に移せないっていうのが普通の人です。

だから家庭でごみを出す前に、例えば空き缶類はここ、ペットボトルはここ、生ごみはここというふうに家の中で3種類くらい分別をして、ある程度たまったら出すっていう、身近なところからすぐ行動を起こせるように、仕組みを変えていくっていうことが、とっかかりとしては重要かなと思っています。

●四井さん/僕もそれは思います。暮らしの中でうまくいくこと、うまくいった瞬間ってあるんですよ。暮らしの作法が生まれるっていうこと。物事を進めるプロセス、順序において、自分の中でルールができる、そういうことだと思うんです。

今、加藤先生がおっしゃられたみたいに、ごみ箱を分けるっていうのはごく基本的なことだけどなかなかできないことだし、それをやればいいんだけど、例えば行政が配慮するとか、分け方をちゃんと伝えてあげるとかして、暮らしの作法が生まれるような導きをやってあげるのはすごく大切なことだと思います。

●枝廣さん/例えば、名古屋市が藤前干潟を守るために分別を急に増やした時期があるんですね。その時は市内で繰り返し説明会をして、プラス、透明なビニール袋で中身が違うのは持って行かないっていう、それくらい強権発動しましたね。そうやってやっぱりある程度、行政からきちっとやっていく必要があるだろうし、行政がそこまでまだやっていないなら自分たちでできる範囲で。

なので、地区によっては行政ではやっていないけど、自分たちで生ごみ集めて集落単位でそれを堆肥化してその集落の農業に使ったりとか、できるところから取り組むといいですね。ありがとうございます。

【一人の行動がやがて社会を変える】

●参加者/兵庫県から来ました近藤と申します。私も去年パーマカルチャーということを知って、それで四井さんのお話を聞きに来たんですけども、地域のデザインをするっていうのが凄く新鮮で。先ほどもおっしゃられた、人が住むことがマイナスではなくて、プラスになるというのがすごく新鮮で、自分たちの町でもやってみたいなと思いました。すいません、感想です。ありがとうございます。

●枝廣さん/ありがとうございます。とても嬉しいです。他の方、あと数分なのでどなたか感想でもコメントでも、今日参加されて、こんなふうに次はやっていったらいいんじゃないかってことでもいいですし、はいお願いします。

●参加者/ミナモトから来ました青江です。四井先生のお話を聞いてね、省エネとかエコカーとか、これはただ先延ばしをしているだけじゃないかと、私もそういうふうに思うんですね。私はこの世の中を一万年単位で考えるんですけど、岡山の1万年後はどうなるかな、来年とか10年後とかじゃなくてね、1万年後の岡山市はどうなっているんだろうかと、そこから考えると、省エネとかじゃなんにもならない気がする。

マイナス100をマイナス50にするんじゃなくて、プラスにならないかという発想はないかなと思うんですね。で、今日ここに来られた方々、積極的な方が来られていますからね。そういう人は世の中そういないと思うんです。100万人に1人くらいかなと思いますけどね。

私はね、やはり1回やるべきだと思うんですね。まずみなさん、ここの方たちが、一回現実にやってみる。どうやったらそんな生活ができるのかということを岡山市内でやってみるんですね。その時はいろいろお力を借りなきゃですね。そして、それをみんなに見てもらって、確かにこうだと、示さないといけないと思うんですよね。

言葉でいくら言っても、いい話を聞いたなで終わるんですよね。現実にやった時に、それを見た人が感動して、やってみようかな、となる人が3人出たら大成功ですよ。頭で考えるより、私はやってみたいんですよ。やろうと思います。そしたら「私も協力する」という人が出てくる。それが感動につながると思うんです。今日はいろいろ、いい話を聞きました。現実に実践したいです。

●枝廣さん/すばらしい。ぜひみなさん、近くでそうやってやってくださる方がいたら、うまくいくこと、大変なところとか含めて、地域での学びにもなると思うし、ぜひぜひと思います。

●四井さん/エッフェル塔を建てようとした時、パリ市民は大反対したんですね。でもエッフェルは新しい世界を開こうということで無理やり建てたんですよ。それが今となっては一番の観光名所になっている、一番の観光資源になってる、すごいことだと思います。

●枝廣さん/最初に誰かが始めないと。四井さんがこうやって日本で、世界でやってらっしゃるんで伝播していくといいなと思います。そろそろ時間なのでおしまいにしないといけないので、お二人に簡単に一言ずつもらっておしまいにしようと思います。

●加藤さん/やっぱりこの地域の活動の西の新拠点の総合公園の建設もそうですけど、今ここに来られてるように、みなさんすごく熱意があって、やりたいって思われている方がたくさんいらっしゃると思うんですね。

ただつなぐ人が必要で、青江さんみたいな、自身の仕事もある中でほぼボランティアの形でこういう市民とか行政とか研究者をつないで一緒に活動、ムーブメントを起こしていこうとする人の存在ってすごい貴重で。こういう仕組みが今、岡山でここでまわっているということは素晴らしいことだと思うので、ぜひ私も一市民としてこれからも何か関わっていけたらいいなと思っています。

●四井さん/僕は青江整一くんの誘いでかれこれ3年、この活動につき合わせてもらってますけど、いつも来て思うことは、あの公園を変える、市民のものにしていくっていうのは、ほんとにチャンスだなと。みなさんのチャンスです。

加藤先生がおっしゃられたように、社会は変わろうとしているんです。エネルギーも変わろうとしているし、みなさんのライフスタイルも変わろうとしているし、みんな危機感を持っている。変えたい変えたいどうしようってところに来ているんです。

そこで具体的に何かしようという現場が、今みなさんの前には公園を中心とするこの新しくできつつある町にあると思うんですよ。もしここがうまくいったら、北長瀬がうまくいったら、岡山市全体につながるかもしれない。岡山県全体が良くなるかもしれない。

しかも僕ら関東にいる人間としては、岡山県ってけっこうすごいところなんですよ。岡山に行きたいって言ってる人が多いし、岡山がすごいところだっていう、なんとなく認識があるんですね。

今日の話のように変わっていったら日本全国に影響するかもしれない。だからこれは本当にみなさんのチャンスだと思って頑張るべきだと思います。僕も応援しますし、加藤先生、枝廣さんも、整一くんの集めているいろんな人たちが、これから頑張ってくれると思うので、ぜひ変えていきたいと思います。頑張りましょう。

●枝廣さん/はい、ありがとうございました。ではお二人に拍手でお礼に代えさせていただきます。では最後の挨拶をお願いします。

●青江/みなさん、長時間にわたってご参加ありがとうございました。ワークショップを見ててもみなさん本当に積極的で、実現可能な、面白そうなアイデアがたくさん出てきているので、どうにかしてこれを自分たちが活動しながら実現できるように、当然自分たちだけではできないので岡山市行政の方たちにも提案をして、一緒になってやっていけるようにしていきたいなと思います。

市民だけだとなかなかできないことも、四井さんや加藤さん、枝廣さんみたいな専門家の方々に助けてもらいながら、みんなでやっていきたいなと思っています。さっき最後の質問者で情熱的にしゃべった人が僕の父親なんですけど、その会長から継いで工務店の代表をやっています。工務店でできることもきっとあると思うので、これからの持続可能な開発というところに取り組んでいきたいなと思っています。

(おわり)

【くらしのたねまきシンポジウムvol.3を終えて】 枝廣淳子

今回は暮らしの土台であるインフラや、暮らしそのものを考えてみる回となりました。
加藤先生のグリーンインフラの考え方や事例、そして、四井さんのご自身と家族の「循環する暮らし」のお話、本当に参考になりました。
また、おふたりのお話をうかがったうえで、実際にこの地元の地図を広げて、グループごとに「どこをどう変えたいか」「どこにどんな可能性があるか」をディスカションし、全体で共有しました。
具体的な「場所」を想定しながら話をすると、とっても現実的で具体的なイメージが浮かんできますね!
どのグループも熱心に楽しそうに議論されていたのが印象的でした。
このような具体的な場も意識しつつ、次回、そして、最終回へとつなげていきたいと思います。
どうぞお楽しみに!