【防災・減災にも貢献するグリーンインフラ】

ではなぜ、今グリーンインフラが必要とされているのでしょうか。例えば地球全体の環境問題ですね。温室効果ガスの増加で気候変動が進行していて、それが昨今、自然災害の原因の一つにもなっています。集中豪雨であったりとか、都市部のゲリラ豪雨、台風ですね、そういう自然災害の被害が気候変動によってより大きくなっている。そしてその頻度が増えているということがあります。

防災・減災はやはり日本に住む上で意識しないといけないことなんですけれども、インフラが老朽化していて、それを更新する必要がある。そういう事情の中でうまくグリーンインフラを取り込んでいくことができないだろうかということです。

日本では、特に少子高齢化や人口減少が進んでいますし、グローバル化の流れの中で、地方の耕作放棄地が増加していくとか、集落によっては無居住化が進んでいるといったことがあります。

世界的にも都市や地域間で人材やリソースをめぐる競争があって、宮内さんのお話にもありましたけれども、緑を量だけではなくて、質を求めるような政策に転換するであるとか、緑豊かで安全安心な住環境づくりに対するニーズの高まりがあるという背景があります。

グリーンインフラは、これらのいろいろな社会課題に貢献できる考え方です。逆に言えば、いろんな立場の人が意見を投函できる、幅広い概念なんですね。

例えば道路とか橋とか上下水道とか、生活に欠かせないインフラを作っている人たちにも関係するし、農業に関わる人たちにも関係のあることだし、自然環境を守りたい、動植物の生息場所を保存していきたいという人にも関係がある。

【自然環境の機能をうまく引き出し活用する】

インフラの老朽化という話をしますと、高度成長期以来、これまでに作ってきた様々なインフラがかなり古くなってきてるんですね。それを維持管理する費用、そして作り直していくための更新費が、どんどんこれから増えていきます。

これまでインフラを作ってきた費用と同じかそれ以上のお金が、更新や維持管理にかかるっていうことになっています。これかなり危機的な状況です。そんな中で、2015年に国土形成計画とか社会資本整備重点計画に、グリーンインフラを推進していこうということが、政府の政策として盛り込まれています。

ただ、日本は自然と長年向き合ってきて、自然災害に苛まれてきた国ですので、古くからの知恵はあるんですね。これまでの取り組みの中にも、グリーンインフラという名前はなかったけれども、もともとある自然環境の機能を生かした取り組みが、特に河川共生ですね、洪水対策などで各地で見られます。例えば貯水池、遊水池がそれにあたります。

それからグリーンインフラというのは、地方公共団体の都市計画のマスタープランであったりとか、緑の基本計画、環境基本計画、生物多様性の戦略、相互治水計画などとも関連するものです。

従来からある社会資本や土地利用に見られる事例、例えば貯水池、遊水池。これらをグリーンインフラと呼ぶかどうかというのは、あまり重要ではなくて、何が重要かというと、自然環境が持っている機能をいかにうまく引き出して活用し、地域のいろんな課題に対応していくことができるか。それを通して、持続可能な自然共生型の社会、レジリアンス(復元力)や質の高い地域生活の向上に貢献していくという考え方がグリーンインフラなんですね。

【環境保全/地方創生/防災・減災】

グリーンインフラが扱うテーマとして、まず一つは環境保全。それから地方創生ですね。地域を元気にするという地域振興。そして防災・減災と。この三つの接点に対応できるというのがグリーンインフラの基本的な考え方です。

防災・減災、地域振興、それから生物の生息空間の場所を提供することによって様々な地域課題に対応していくということで、それがひいては持続可能な自然共生型の社会、国土の適切な管理につながっていく。質の高いインフラの投資に貢献できるということです。

良好な景観の形成だったりとか、動植物の生殖生育場所の提供、洪水対策、健康やレクリエーション、文化的な事業、火事・延焼の防止、地球温暖化の緩和、ヒートアイランド対策などに、もともと自然が持っている機能をうまく使っていこうということです。

【グリーンインフラは人工物も含む】

自然から人工のものまで幅広くグリーンインフラとしてとらえることができます。例えば自然ですと、奥山とか森もグリーンインフラですし、湿地もグリーンインフラですし、海とか川もグリーンインフラです。こういうブルーのものも、グリーンインフラに入っています。言葉はグリーンなんですけれども、ブルーも含まれている。

それから、半自然ですね、いわゆる里山とか、人が二次的に管理してきたもの。それから田畑も含まれます。農地もグリーンインフラです。そして緑の防潮堤とか多自然の川づくり、緑化されたものもグリーンインフラです。

ですので都市部でしたら屋上緑化もグリーンインフラですし、壁面緑化もグリーンインフラですし、みなさん夏にゴーヤを育てられた方もいらっしゃると思いますが、そのゴーヤを育てることもグリーンインフラなんですね。都市の公園や街路樹もそうです。

道路がアスファルトに覆われていると雨が地下に浸透していかないんですけれど、雨が浸透できるような舗装や、雨水を溜めるようなタンクも、人工のものなんですけれどもグリーンインフラというふうに考えていいかと思います。

広い範囲でグリーンインフラの要素をいろいろ連結させてつながりを持たせながら、トータルでその地域の魅力、自然環境、住環境を改善していくことがグリーンインフラでめざす都市の姿になります。

【多自然型の川づくり/屋上緑化/延焼防止帯】

ここからは、より具体的な事例を紹介したいと思います。先ほどの考え方で示したように、環境とか地域振興とか防災・減災、これらを取り扱うのがグリーンインフラの事業なんですけれども、例えばこういう多自然型の川づくりや環境教育を合わせたものなんですね。そうすると洪水の抑制にもつながりますし、その地域の自然環境を守ることにもつながりますし、地域振興にも関係してきます。

人工の堤防の代わりに砂丘を保全することによって高潮や高波の被害を抑えることができる。また森林の利用は、環境面に特に配慮したグリーンインフラになります。それから都市部の屋上緑化などの取り組みもグリーンインフラになります。

一つ目の事例は、多自然型の川づくりなんですけれども、山口県の「一の坂川」におけるホタルが住める川づくり。これはもともと大きな河川ではなくて、岡山の西川緑道に近い感じかなと思うんですけれども、もともとコンクリの三面張りの、水が流れるだけの川だったところをホタルが棲めるような護岸改修をして、今では春には桜が咲き、夏にはホタルが飛び交うような自然豊かな、その地域のアメニティになるような、地域の観光スポットになっています。これは西川緑道に非常に近いと思いますね。

こちらは、石川県の金沢市。新聞社の屋上緑化の事例ですけれども。兼六園とかその地域の都市公園の緑とつなげて、地域全体の魅力向上につながるような緑化をおこなっています。このように建物の屋上や壁面の緑化、地域の街路樹の整備などもグリーンインフラの事例となります。

都市部ですと、緑化によってヒートアイランドを抑えるという対策ですね。それから公園によるそれぞれの施設の質の向上、これは岡山でもできそうだと思うんですけれども、路面電車などの、これは鹿児島市なんですけれども、路面電車が走る下のところを芝地にした軌道緑化の例です。

そしてこれが民間が私有している土地のさらなる緑化ですね、六本木ヒルズとか大阪のなんばパークスになります。このように都市部では特に二酸化炭素の吸収だとかヒートアイランド現象を抑えるようなこと、そして生物生息地を保全していくというようなことにもグリーンインフラの事業として様々な取り組みがおこなわれています。

もし都市部が大々的な火事に見舞われた時には、緑地があると延焼をせき止める効果があるんですね。このように都市公園を延焼防止、そして緑化した場所を延焼防止帯として活用するということもグリーンインフラの事例になります。

それから災害時には、緊急車両だとか自衛隊のテントが張れるような場所を提供するというような、通常時と災害時とは違う使い方をする、そういう副次的な利用ができるような公園のデザインもグリーンインフラの一つですね。都市部、公園でこのようなことがおこなわれています。

【ポートランドの事例「雨庭」】

最後に海外の事例を2つ紹介します。1つは環境先進都市で有名な西海岸のオレゴン州ポートランド市。アメリカでは1990年代からグリーンインフラに類似した取り組みがおこなわれていて、特に雨水の管理ですね。地面がアスファルトに覆われていると、それまで土だったところになかなか雨が浸透せずに、そのまま排水口に流れていって、それが一気に下水処理施設に流れていくという、合流式の下水道氾濫が問題になっていたんですけれども、雨水の管理を取り入れることによって、少しでも分散させて被害を抑えるということができます。

これはポートランド市の個人宅の雨庭の取り組みです。通常は雨どいからすぐに下水に流す接続があるんですけれども、その接続を切ってしまって、この家の屋根に降った雨は雨どいを通って、この雨庭に流れるようにしています。

雨庭っていうのは一時的に水をためたりとか、その場に浸透させる役割を担っています。その地域の動植物にも住処を提供したりしています。これで一番面白いのはパブリックアートのコーナーなんですけれども、雨どいをよく見ると、鮭がいるんですね。あたかも雨が降って伝わっていくと、鮭が遡上しているように見えるデザインになっていまして、非常に遊び心があるデザインなんですけれども、これは、鮭っていうのはきれいな水質の川に住む指標となる魚なんですね。

汚染された水がそのまま下水処理施設に流れていってしまうと、鮭が住めなくなってしまう、できるだけ地面に降った雨はその場で浸透させるようにして、こういう雨庭とかで一時的に処理をして、鮭がまたきれいな川に戻ってこれるように水質を改善していきましょうと。そういう環境教育も含めた取り組みになっています。

【植物を利用した「グリーンストリート」】

次に、これはグリーンストリートという、道路に降った雨水と歩道に降った雨水が、掘り下げられたプランターのところで一時的にためられて、植栽等で処理されてまた流れていくというものです。

同じようなプランターがこの通り沿いに4つぐらい連続してまして、そこを時間をかけて雨水が通っていくうちに、泥水とか汚染物質が植物に吸着されたり沈殿したりして、水がきれいになるという仕組みになっています。

こういう郊外の住宅地に、初期に作られたグリーンストリートがあって、たぶん設置されて20年ぐらい経っていると思うんですけれども、今ではかなり植物も育ってしまって、その管理が少し問題なんですけれども、このような緑の景観ができあがっています。

【災害時を想定してデザインされた窪地】

これは地域の公園の一角なんですけれども、こういうふうに窪地になっていまして、通常時は乾燥していて植栽が植わっているところですが、大雨が降った時には雨が一時的にこの窪地にたまるようなデザインになっています。

実際ここがあふれるほど水がたまるということがポートランドではまずないと思うんですけれども、100年に1回とかの洪水を想定しているのだろうとは思います。こういう普通の時と災害時とで複数の使い方ができるようなデザインの設計が取り込まれているという例です。

【都市の雨水が集まるようデザインされた湿地帯】

最後にニューヨークなんですけれども、ニューヨークはハリケーン・サンディが来た時にかなり被害がありまして、その復興計画の中で、これから気候変動で気温上昇がますます進む中で、湿地帯を取り入れた再生事業を進めています。

通常時は、人々がすぐ近くまで来て自然と触れ合いながら、都会と自然がうまく合わさってつながれて両方楽しめるような空間になっています。

これも、少し別の場所のニューヨークの沿岸部分のデザインですけれども、遊歩道が整備されていて、ここに地域の雨を集めるような水路があります。自然環境が復元されていて、もしこの遊歩道を越えるような高波が来た時には、その水が一時的にたまったり処理されたりするような、そしてその奥にはそこまで高波の被害が行かないようなデザインになっています。

東日本大震災の後、多くの自治体で前と同じかそれ以上の高さの防潮堤が建設されましたけれども、そういう13メートル級の防潮堤を被害があったところにまた建てるのか、あるいはこのような自然の湿地だったりとか高波とかの威力を軽減するような自然の植生を生かしたデザインにして、ある程度被害は自然の中でとどめるという復興にするのか、というのが考え方の大きな違いだと思います。

【単一ではなく様々な目的に対応できる】

グリーンインフラは非常にたくさんの自然の機能を活用できるという点が特徴です。これまでのインフラが主に単一の目的で作られているのに対して、グリーンインフラは様々な目的に対応できます。そして災害があった時に、しなやかに回復できる力も備えているということです。

先ほども東日本大震災の例を出しましたけれども、当時、宮城県に日本一だと謳われる堤防がありまして、その堤防も想像を絶する津波の威力に破壊されてしまって甚大な被害が出ました。

このように自然災害というのは、やはりいくら人間が想定した計画があったとしても必ずいつかはそれを超える災害に見舞われることになります。特にこれから気候変動によって海面上昇とかゲリラ豪雨とか、異常気象が増加していくと予想されています。

これまでのような、より大きく強いインフラを作り続けるというのは建設費や維持管理費の面で限界が来ている。特に地方、日本の財政面は厳しいですから、同じような感じでインフラを作り続けていくというのはもう限界が来ているんですね。

ですので、グリーンインフラが持つ保水や浸透、蒸発散というもともと自然が持っている機能を融合させて、そして通常の時と災害の時で異なる機能を発揮できるようなデザインを活用しながら、うまくその地域の防災・減災を高めていくという必要があると思っています。

【従来のインフラにかかる負荷を軽減する】

これまでのインフラをすべてグリーンインフラに変えてしまう置換ではなくて、補完ですね、ハイブリッド。今まで作ってきたインフラはもちろん機能している面もあって、私たちの生活を支えてきたんですけれども、従来のインフラすべてをグリーンインフラに変えるわけではなくて、適した場所とかスケールごとに組み合わせ、割合を変えていく必要があるということですね。実はコストの面でも、ハイブリッド型にした方が走行的なコストが安くなります。

雨水の貯留、浸透、蒸発散などを含めた緩和、水質の浄化や延焼の防止等の機能をうまく活用して、従来のインフラにかかる負荷を軽減していこうということです。特に都市部では、こういう考え方が重要かと思います。

グリーンインフラというのは自然とのふれあいとか、人と人とのつながりとか、社会的な構成、社会の多様性などを含めた社会的な共通資本、その価値の実現の際に非常に有効な手段だということです。

特に経済活動が盛んな都市部では、これから民間の活力として公と民の連携というのがキーワードになります。ですので、私たちも公からのサービスを一方的に受けるだけではなくて、自分が住んでいる地域をより良くしていくために積極的に関わっていくという気持ちが大事だと思います。そしてSDGsの目標を達成するためには、グリーンインフラを使って相乗効果を高めていくということが重要なのではないかと思います。

以上で、少し長くなってしまったのですが、これで私の発表を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

●枝廣さん/ありがとうございました。ではもうひと方ですね、四井さんのお話を伺って、それで休憩を取って、その後みんなでいろいろと考える話をしていきたいと思います。では四井さんお願いします。