【徳島県神山町の街づくり】

二つ目の事例は、徳島の神山町です。ここは3回くらい取材に行った場所で、今、先進事例の一つと言われています。ここは人口が5300人くらい、この地図にあるように中山間地で、どんどん人口が減っていってこのままでは町がなくなるかもと予測されていた。今、そうなっていなくて人が増えている状況ですけど、ここで、その町を将来世代に繋ぐプロジェクトというのが始まりました。

2015年ですね、創生戦略というのを各自治体で作れと国からの指示が出たときに始まったんですね。このときに「神山町を繋ぐ会」というのを立ち上げました。これが、役場の中の会議です。課長級の人たちと手を挙げた人たちが隔週ペースで集まって、いろんな繋がりを作っていく。

他の街を見ていても、街づくりやろうと言うと、街づくり課とか政策なんとか課っていうところに仕事がいって、そこだけが街づくりをやる。町役場全体で動くっていうふうにならないんですね。それを、ここはうまく作っています。それと同時に「一般社団法人 神山つなぐ公社」という公社を作りました。この二つが徹底して街づくりを進めています。

神山というのは繋がりを大切にしていて、この中でいろんな人がいて、いい関係と支える場がある、そして常に新しい活動が生まれている。そんな街にしたいよねっていうことをまずビジョンとしてみんなで語った。じゃあどうやったらそうなるのか。それは、可能性があるから人は集まってくるんだろうと。可能性を感じないところには人は集まってこないので。

じゃあ神山の可能性ってなんだろうっていうことをワーキンググループで考えたそうです。ちなみに神山町の街づくりをやるときに、東京から西村さんっていう有名な方が移住しています。こういうノウハウとか繋がりとかを持った人が一緒にやっているから、できたというところはあると思います。

人がいる、いい住居がある、いい学校がある、いきいき感がある。資源が地域の外に出ていかない。こういったことを、いい循環を持っているよねってみんなで考えて、今そのために施策を打っています。

住まいづくり、人づくり、仕事づくり、循環の仕組みづくり、安全の暮らしづくり、関係づくり。そういうことを施策として、公社の方で実際にプロジェクトを進める。最初の住まいづくりというところで言うと、子育てを軸とした集合住宅。古民家リノベーション、それを支える住宅ローン。それらを町役場がやることは町役場で、公社でやることは公社がやる。

あと人づくりということで、教育コーディネーターというのが置いてあるんですね、教育をきちっとまわせるようにしてある。「孫プロジェクト」というのが面白くて、高校生たちが集落の修繕をやるっいう、孫の手を借りたいっていうものなんですけど。いろんな形でやっています。

仕事づくり、起業ですね。多様性を持ってやっているし、ワークインレジデンスっていう、一定期間そこに移住して、そこで仕事ができるという、地域の人と繋がったり知恵を分け合ったり、そういうことをやっています。

そこで入った人が実際に移住して居住するという例もありますが、関係人口を増やしていっているんですね。あとは循環。地域内経済循環、地域の中でお金をまわそうということとか、そのために実際、地場のいろいろなものを作りましょうとか、そういうことをやっています。

そして安心なまち。食料の備蓄とかですね、高齢者のための仕事づくり、ITを使った鳥獣害対策など、いろんなことをやっています。関係づくり、まちの発表会とも言っていて、外からけっこう参加する人がいるんですけど、外側とも繋がっていく。そういうことを見える化する。

【みんなが集まれる場所をつくる】

神山町のメールアドレスを登録すると神山だよりが届きます。私はそれを登録してるんですけど、神山町で次々と面白いことが起こっているのがよく分かります。街の中の人たちにも伝えているし、外にも伝えていっています。実際に数値目標、人口をなんとかしましょうってあるんですけど。

今、「神山つなぐ公社」というのを作って、7つ、どういうことをやるかっていうのをやってるんですね。人口の目標っていうのがよくあるんですねけど、地域経済の自立性とか環境指数とか新しいプロジェクト、仕事、人生に対する幸福度、このあたりをちゃんと見ていこうという形で街づくりをやっています。

住まいづくりの例を一つだけご紹介しようと思います。大埜地ってところが集合住宅を作っていますけども、神山町って町域が広いので、真ん中に集まっているわけではなくて、みんな点在してしまっている。なので、みんなが集まれる場所がほしいねってことと、神山町は人気で人が入ってくるんですけども、なかなか住宅が足りない。なので、子育て、働き盛りを中心に、みんなが繋がれるような賃貸住宅を作ろうと。

20戸の木造住宅、広場、文化施設もある、家族とか夫婦用の住宅が中心なんですけど、単身者とかバリアフリーとかいろんな人が一緒に住むのがいいという考えですね。バイオマスボイラーで、温水を配っています。

神山の木を使って、これをきっかけに、町の材をみんなで使っていこうということも始まっています。建設は、街の工務店で一軒一軒は作れるけど、大きいのをどかんとは作れない。大規模な工事をやると、それはお金が外に漏れちゃう。だから分けるような形にして、4年かけて開発します。なので、一回ごとに作るのは小さい規模なので、町の大工さんが作れる。わざわざそういうふうにやっています。時間をかけることで町の人たちが関われるようにしています。

ここに関わることで、技術を受け継ぐということまでやっています。なので、本当は大きいところに頼めばすぐ建つんでしょうけど、それはお金が外へ出るだけじゃなくて、町の大工さんたちの技術も伝承されない。単に家を作るだけじゃなくて、何を大切にするんですかと、そういうことを考え抜いてやっているプロジェクトです。

もともと中学校の寄宿舎だった場所で、町の人たちにとっては思い出の場所だったそうです。そのときの思い出のものはいろいろ残しているし、もともとあった建物を解体したときのものが、そこから出しちゃうと産業廃棄物になるんですけど、中で再生利用することでいろんな形でできるだけゴミを出さない、そこにあるものを使うという形になっています。

植栽もドングリなどを集めてきて育てて、それを植える。地元の木を自分たちで育てる。このように至るところで町の人たちを巻き込んでいく仕掛けが考えられています。具体的にはこんな感じですね。20戸の住宅があって、ここにコモンがあって、みんな集まれる場所。川沿いの道は車が入らないように遊歩道になっていて、バイオマスボイラーで全部、熱を供給している。そんな街です。

【姫路駅前の再開発事例】

3つ目は、青江さんとか「くらしのたね」の方々と行った姫路の駅です。これは岡山市に近い話になってきますが、駅前の大手前通りという、姫路城がまっすぐに見えるようになっていて、姫路駅の片側が今、こういう街になっています。ここは近いので、機会があったらぜひ行かれたら面白いと思います。

これが街づくりする前、駅前開発する前はこういう感じでした。よくある街ですよね、車のための駅前。このときは歩行者が歩ける空間が26%しかなかったそうです。それが今こういう形でですね。車いないでしょ、車はこちら側に来るようになっていて、ここは人のためのスペースです。

人が集える、人が歩ける場所になっています。整備後は61%に歩ける空間が増えて、非常に人にやさしい街になっています。これが駅から出たところですけど、段々があって緑があって人が集まれたり、おしゃべりできるような、そういう場所があって、中には商業施設が入っています。

ここは地下の通路が大きな広場になっていて、よくいろんなイベントとかコンサートとかもやっています。これ、北側の広場でさっき緑が見えていた芝生なんですけど、自由に入っていい芝生、いろんな人たちがこうやって遊んだり昼寝をしたりしています。こういう感じで続いています。

【住民がお客様ではなく主体者になること】

これまでは行政が計画して、設計して、施工して、管理するという、これが街づくりですけど、運営そのものまでを一緒にやっていくという形が大事、そういう考え方になってきています。なので、どういう街にしたいかというビジョンも、市民と行政が一緒にやっていくし、最後のできた後の運営も、今エリアマネージメントとかパークマネージメントとか言われますけど、住民と一緒にやっていくと。

それが先ほどの素敵な駅前広場になっているんですけど、5つのポイントがあって、「車から人」。車中心の駅前広場から人中心の駅前にしていく。「協働のデザイン」。みんな一緒にやっている、専門家もやっているし、不法駐輪が大きな問題になっていますが、それも解決していく、社会実験しながらやっていくということです。

広場を使う人たちを最初の話し合いに巻き込んで、どういう広場にしたいか、どういう駅前にしたいか、一緒に作っていくんですね。そういうふうに自分で考えると、お客様ではなくて主体者になるんですね。こうやって市民を育てるっていうのもすごく大事なポイントだと思います。

中心になっているのが、「ひとネットワークひめじ」というところなんですが、理事さんたちの他に従業員とパートさんがいて、この人たちが実際に運営をやっている。例えば、見学に行くとまずこの方々がついてきてくれたりとか、そういうコーディネートをやってくれています。

もともとこの駅前を開発しようとしたときに、市が出してきたのはこういう案でした。結局、車中心の、今と変わらないものですよね。それでこっち側に商店街があるんですけど、商店街の方々が、「これだとお客さんたちがみんな車で着いて、向こう側に渡るのも大変だ」ということで、このままだといい駅前開発にならないからなんとかならないかということで、私の友人の、NPO法人スローソサエティの米谷さんのところに相談がありました。

そのときにいろんな団体がいろんな案を出してですね、それぞれ自分たちにいいような案を作って出して、市民の中もけっこうバラバラ。商店街連合会、商工会議所とかで議会を開いて審議して、これをなんとかまとめていかないといけないねっていうことで、「参加と協働のデザイン」というアプローチがあります。

当事者、関係者を明確にして、プロセスをデザインする、最初から関わる、一緒に作っていく、こういったワークショップ形式でやっていく。行政が中心でやることと、NPO、市民がやることとでは、当然分かれる。そこを参加と協働でやっていくという。行政にしかできないこともある、市民しかできないこともある。だけど真ん中の部分を一緒にやっていこうねと。

【ワークショップで対案を作る】

まず、商店街の連合会と集中的にワークショップをしました。さっきの、市の「車中心の素案」に対する対案を作るっていうワークショップを繰り返しやりました。それで、商店街としてはこういうことやりたいねっていうパースを作る。それによって対案を出す力がついてきた。

これが商店街、連合会の対案です。駅から降りてきたら自然に商店街へ抜けて買い物しやすい。そういう街づくりも意図しています。それだけじゃなくて、いろんな人たちがいろんな案を出して、みんなが集まって、合意形成をする場を作っていきました。

対案がたくさん出て、ワークショップをやっていろいろと整理をしていって実証実験もやりながら連絡会を作ってこれを案にする。これを進めるための社団法人を作って進めていきました。専門家が入っているのと、民間、それから行政、百貨店とか企業とかバスも入っています。

バスがけっこう大変で、バスはやっぱり駅前につけたいですよね、駅前筋は道路を作らない、じゃあバスどうしたらいいか。バスって「待ってるバス」をどこに置くかが難しくて。地下にそういったバスの専用の待合のスペースを作って、本当に必要なバスだけが上に上がっていくようにした。

このようにいろんな人たちが、それぞれの理解を持って、みんなが案を出し合って一番いい形がどうなのかっていうのを話し合っていました。今はですね、夜になるとこんな感じですごく素敵で、このへんにはカフェとかバーとかもありますし、思い思いにみんなが広場を楽しむ、そんな場になっています。

【海外のコミュニティ・ランド・トラストについて】

一番最後にですね、これは日本ではまだ実例はないですが、日本でも可能性はある手法、コミュニティ・ランド・トラストというのを説明して私の話を終わりにしたいと思います。

これはですね、CLTって海外では言うんですけども、コミュニティは地域社会ですね、ランドは土地、トラストは信託。これはどういうことかって言うと、今、多くおこなわれているのはイギリスとアメリカです。土地を地域社会で民主的に使っていこうというものです。

土地はコミュニティ全体で共有します。誰かの私有物ではなく。この動きが起こったのは、私が取材に行ったトットネスでもそうなんですけど、お金がある人は素敵なお家が買えます。ほんとにお金がない人は生活保護者用のお家があります。お金がないけど、そこまでないわけじゃないっていう人たちが、適切な価格で買える物件がなくて、家がないということがイギリスでもよくあります。

ある土地をコミュニティで持って、低所得者が入れる住宅を自分たちで作ろう。そういう動きが始まっています。その土地を誰かが寄付してくれる場合もあるし、寄付金を集めて土地を購入する場合もあるし、これはイギリス、アメリカ的なやり方なので説明しませんが、寄付してもらったり、公共の土地を使ったり、もしくは寄付金を集めて買ったりという形で集めます。

【住民がお金を出し合って土地を所有する仕組み】

みなさん、ナショナルトラストっていうことを聞いたことがありますよね。自然保護の。

ナショナルトラストっていうのは環境保護で、例えば、みんなでお金を出し合って知床の森を買おうっていうのが日本でもありますよね。そうするとそこは開発から守られる。

私有物だと、その人がいいって言うと開発ができちゃうので、みんなでお金を出し合って土地を買うことで自然を守るというのがナショナルトラストです。これは、日本にもナショナルトラスト協会というのがあって、土地をみんなで持つことで開発を止めるってことはたくさん行われています。

日本には60以上あるそうです。ナショナルトラスト。基本的にコミュニティ・ランド・トラストも一緒です。みんなで土地を持って、それをみんなのために使おう。例えば、私がお手伝いしている北海道下川町というところは、その街に昔からある建物をこのままだと壊されちゃう、潰されちゃう、そういったときに街の人たちがお金を出し合って、トラストとして建物と土地を持って手入れをしながら保存している。

それもトラスト運動になります。それをコミュニティで土地をトラスト形式で持って、それでみんなが住める住宅を作ろうという形でやっています。これはちょっとまだ日本では実例がないんですが、日本で実現できるのかどうかっていうのを専門家に聞きに行きました。

そういうことに詳しい、土地の制度に詳しい方にお聞きしたところ、可能性はあると。それができないという法律はないと言っていました。ただ今、日本に実例がないので、そういう仕組みを、実例を作っていかなければいけないけど、連携とか働きかけをしていくことで、例えばこの町を守りたい、自分たちの思いで再開発したい土地があったとしたら、なんらかの形でコミュニティ・ランド・トラストを作って、そこからディベロッパーがお金を持って開発するんじゃなくて、町のためになるような開発をしていこうということは、制度的には可能だというこです。

今、いろいろ空き家とかそういう問題があってですね、人がいなくなったようなところ、そういうところをどうしましょうかっていう話が国のほうにも届いているので、そういう権利がクリアされたら、実際に誰がこの開発をしていくんですかというのが次の課題になってきます。

そのときにおそらく、これはボストンの例ですけど、コミュニティ・ランド・トラストが引き受けて地域の開発をしていくという動きが出てくるんじゃないかというのは、学校の先生もおっしゃっていたことです。

もし日本でもそういうことが広がれば、どの地域でも、特に中央都市で空洞化、空き家ばっかり、そんなふうになってるんですけど、それも良くなるんじゃないか。再開発の地域づくりを考えていて、もしかしたら役に立つかもしれないという事例でお話しをしました。ここまでで私の話は終わりにして、ゲストの方にそれぞれお話をしていただきましょうか。

●青江さん/ありがとうございました。他の地域でどんな成功事例があるのかということと、成功するためにはどんな流れでやってきているかが少し分かったかと思います。今からは今までのゲストの方たちに、今の感想や、自分たちの街に置き換えたときにどうなのかとか、なんでもけっこうですので少しお話をいただけたらと思います。簡単でけっこうですのでよろしくお願い致します。

●加藤さん(岡山大学准教授)/私は四井さんと同じ回で、グリーンインフラについてお話をさせていただきました。今の枝廣先生のお話で、市民と行政、そして民間が協働してものごとを進めていく仕組みやプロセスの話については、今度の西部新総合公園でもぜひ実行に移せればなと思ってます。私もどういうことができるのか考えたんですけど、2つだけポイントを絞ってお話しさせていただきます。

1つは先ほどの事例にもありましたけれど、最初の出発点というかビジョンが大事だと思っています。例えば総合公園の場所に限定しますけれども、あそこを総合的に公園として開発していくときに、どうしたいのかという将来のビジョン・方向性を、いろんな方々と一緒に話し合いながら、合意できるようなものを考えていくことがすごく大事だということを思いました。

街づくりの話でよく2030年とか2050年とか目標の年が出るんですけど、2030年と言わず100年先の街づくりや公園作りっていうのを考えてもいいんじゃないかなと、大胆に大きなところを目標に狙ってもいいんじゃないかなというふうに思っています。

例えば30年先でも50年先でもいいんですけど、日本を取り巻く環境は大きく変わる。気候変動の影響で大雨の回数が増えるだとか、大型の台風が来る、頻度が増えるとか、ヒートアイランドが進行していって夏が暑くなるとか大きな変化もある。もちろん少子高齢化のこともあると思うんですけど、ある程度対応できる空間作りというのは、1つ考えられることなんだろうと思います。

もう1つが、これは僕個人の意見ですけど、あそこの場所を最先端の考えとか技術をいろいろと組み合わせるような、試験的なデモンストレーションの場にしたらどうかなというのを思ってます。

これまで話にあがった市民農園とか、四井さんの循環型のパーマカルチャーワークショップみたいなものとか。街の中に自然を作るビオトープみたいなものにもなりますし、ビオトープを作ると動植物が生息する場所にもなりますし、そうすると近隣の小中学校や高校の環境教育にも使えるような場所になります。

そこでソーラーパネル、これも最新の技術を取り入れたようなソーラパネルを、実験的なデモンストレーション設備を入れて、蓄電池とかも最新のものを、もちろんこれは民間の企業の方にデモンストレーションの目的で技術を提供していただく仕組みが必要ですけれど、蓄電池が置いてある屋根の上を、屋上を緑化してみたりとかですね。

あとは壁面を緑化したりとか、今までいいと言われているような、いろんな技術とかテクノロジーとかを組み合わせたような、実験的な仕組みをあそこで組み合わせて、それを活用しながら、そんなに興味を持ってない人にも興味を持っていただくような、そんな場所にするということを提案させていただきます。