くらしのたねまき シンポジウム vol.1

REPORT

【古くからあるものをもう一度見つめてみる】

やっぱり人の繋がりっていう、日本のお祭りとかもありますように、定期的に自分たちが続けていくもの、次の世代に渡していくものがあるということが、人々のつながりをつくったりするのです。アメリカは歴史が短い国なので、そういうものがずっと古くからあるわけではないということで、自分たちで意識的にそういうのをつくっていくというのが大事だったりします。

日本には何百年と受け継がれているお祭りがたくさんある。それを見ると、すばらしいなと。それとまったく同じことを我々は自分たちで、その伝統を始めるということをしようとしているのです。

日本には古くから地域に受け継がれていることがたくさんあるので、こういったポートランドの例は紹介しましたが、何も新しいことをつくる必要はないかもしれなくて、すでにあるものをもう一度堀り返す、あるいは見直して、それを新たなかたちで、みんなが受け継ぎたいと思うようなかたちでどんどん生き返らせていくっていうことも十分にあり得るのではないか。

【公共の場とは、みんなの場ということ】

私有地と公共の土地みたいなコンセプトがあって線が引かれているように我々は思っていますけれども、別に線は引いてないですよね。線がリアルにあるわけではないですよね。そこをあえて曖昧にしていきましょうよ、というのも我々の取り組みの中の精神性の一つかなと思います。

そもそも考えたら、公共の場ではこういうことをしてはいけない、私有地はこう使うべきだというのは、行政が押し付けてきたものですよね。彼らが勝手に決めたことですよね。公共の場でできないことがたくさんあるわけですね、ルールで言うと。だけど公共の場でしょ? 「みんなの土地」なわけでしょう?

そこをもう一度考えて、公共=みんなの場だから、みんなが使っていいんじゃない? みんなでいろいろやっていいんじゃないの? という捉え直しをしたわけです。で、そうやって気づきを得て、行動を起こしてしまって。それが起こって初めて、行政は「どうしましょうか?」と言う。

【現実を動かすにはどうすればよいかを考える】

人が最初に動く。そうして住んでいる人たちが主導権を握るというやり方があるし、そうであるべきです。不可能に思えるようなことかもしれないけれど、実際に不可能なことってそんなにないです。

NOと言われても、今はNOと言われているだけで、ダメだといわれても、今はダメってことですねと、ポジティブな捉え方をしていく、どんどん自分たちの土地という感覚で何かを起こしていくということはできます。

ダメです! と言われた時に、対立構造で考えるのではなくて、行政がNOと言わなければいけなかった背景ってなんなんだろうと。どうやったら彼らにとってYESと言えるような環境にできるんだろうというのをこちらでも考えて、どんどん現実的なかたちというのを探っていく。

行政的にはみんなに損害だとか危害があってはいけないということを理由にしてたりする。であれば、みんなが責任を持って同意書みたいなものにサインすればいいですよね、というようなことを解決策として見出して、それから行政からYESをもらう。

【自分で物をつくるスキルを身につける】

(時間がないのでここからは急ぎ足で写真を見ながら)これはコミュニティーサウナです。町内会で使うサウナです。

これはリサイクルセンターということで、地域のみなさんに安い価格でいろいろ廃材だとかリサイクルのものを置いている。これ人気でして、どんどん物がはけていく。で、物が足りなくなるぐらい、みんなが活用している。

リビルディングセンタージャパンありますよね。そのTシャツを着た人を見たので、日本でも始まっている取り組みかなと思います。リユース。リサイクルするということの価値を追求していくという、そうすると自発的な取り組みが生まれたりする。

タイニーホーム、けっこうホームレスの人たちもいたりして、家を持てない人たちをサポートすると。その人たちにちっちゃい家を。ポートランドはすばらしい土地だと言われていますけれど、ホームレスの問題がある。小さくて自分でつくれるようなお家づくりをサポートしたりしています。

自分の家を自分の手でつくるとか、食べ物をつくれるとか、それは災害時にすごい力になったりするわけですね。タイニーホームということで、大きな土地を持てない人も居住地を持てるということなんですけれど、あとは災害で避難しなければいけない人たちがたくさん出た時にも、こういった小さい家を短期間でつくれるというスキルが役立ちます。そのスキルを町中の人が持っていれば、災害が起きたあとも、暮らしというところで役に立つ。

ということで、建築家だとか専門知識を持っているような人たちが一般市民に教えていくというかたちで、タイニーハウスをつくるプロジェクトにたくさんの人が参加して、経験を積むということが起こっています。これに限らず、自分で物をつくる、建造物をつくれるというのはすばらしいスキルです、市民が身に付けられるスキルとして。

これは私自身が管理をしている、働いている小さな農場があるんですね、そこの写真です。これもそのNGOのサポートを受けて運営されているんですけれども。子供に関わってもらって、屋外のピザオーブンを作りました。みんなが関わりながら作り方を学ぶ。オーブンを作ることもそうだし、食べ物を作ることも、そのスキルを手にしつつそのプロセスを楽しむ。これも災害において何もなくなってしまった時に、食べ物を料理する、その道具を作れるってすごく自信になるし、すごく役立つスキルですよね。

先ほどもお話に出たように、自然災害はやっぱり増えていくという現実がある。洪水だとか降水量の増加というかたちで表れているところもあれば、日照り、山火事が頻繁に起きている地域もあって、太平洋側の湾岸地帯は山火事が頻発していて、その煙の害、山火事が起きていなくてもそこから発生した煙で非常に大きな被害が出ている。

その影響を受ける範囲がどんどん広がっていって、大西洋側まで煙が行ってたりするというのが現実です。西海岸で火事が起きてもその煙が東海岸まで行っている。あとは我々環太平洋側にいるアメリカ人は地震も身近なトピックでして、大きな地震も起こり得る、やはり頻度が少ないがゆえに起きる時すごく大きいんですね。大きいからこそ、経験がないから備えておかなければならない状況だったりするわけです。

ということで、先ほどの交差点に戻りますけれど、こういった機会、人が集う機会というのはリスクがあったとしても、ちょっと躊躇したり、いろんな考慮しなければいけない問題があったとしても、それを越えてでも紡いでいく価値のあることなんじゃないかなと思います。そういうようなことが、災害が起きた時にも絶対に役に立ってくるんじゃないかなと思います。長くなりましたが、ありがとうございました。

●枝廣さん/マットさんありがとうございました。いろいろなものを見せていただいて、ワクワクしながら聞いていらした方が多かったかなと思います。一番最初におっしゃった、どのように町をデザインするか、それが規律もつくり出すし、人々の繋がりもつくり出す、やっぱり町のデザインが直線的でそういうふうにつくられていたら人々が触れ合う機会がないし、そうすると孤立しちゃう。

他の海外の事例ですが、まっすぐな道をやめてくねくね道にわざとしてあちこちにベンチを置いて、そうしたら住民は前と同じ人たち、まったく同じ町なんだけれど、あちこちで人々が立ち止まってお喋りをしたりするようになって、繋がりができた。

どういうデザインにするかがすごく大事だということを、あらためて見せていただいて思いました。あと、この道路のペイント、「道路は誰のもの?」という、私たちは自動車が走るところだと思っているけれども、きっともともとはそうじゃなかったですよね。道路って子供の遊び場だったはずだし、ケンケンパーとかそういうことをやっていたはずだし、みんなが立ち話するような、そんな場だったと思うし。

いつの頃からか、自動車のための道になってしまって、人々は端っこに追いやられた。それをもう一回、道路は誰のもの? 自動車だけじゃないよね? 自転車も歩く人も、そこで遊ぶ人も、みんなで使える道路にしようと、「コンプリートストリート」というのがアメリカから始まったんですが、それもオレゴンから始まっていて、あちこちで広がっている動きです。

このあと質疑応答の時間を取って、休憩を取り、みんなで話していく時間を取ろうと思うのですが、マットさんにぜひこれは聞いてみたいという方いらっしゃいますか? いろんな刺激的なお話をいただいたと思います。

今日、会場におられる四井さんは私と一緒に全体のプロセスを一緒に考えて関わってくださっていて、今後、何回目かで実際のお話もいただこうと思っていますが、四井さんにいきなり振りますが、マットさんのお話を聞いてのご質問でもいいしコメントでもいいし、どんなふうに思われましたか。

●四井さん/僕も住んでいる山梨県北杜市でいろんな可能性を感じて地域の住民の人たちと新たな風景をつくりたいと思っているんですけれど、なかなかアメリカ人のようなDIYの精神だったりとか、自らアクションをするというのは、日本人はそういう力が低いような気がするんです。

やはりそれは、昔はみなさんできていたと思うんですけれど、最近は日本は過剰な便利さが進んでしまって、便利さに浸って、自分で何かを考えて物をつくったりということがなくなったり。今日のお話のように、みんなと地域で繋がって、地域で何かを守っていくとか、そういうのをやらなくてもいいというようになって。

行政も過剰なサービスをしているようなところも見受けられると思うんですよね。だからそういうふうなことがある中で、僕らはどうやってきっかけをつくっていけばいいかを考えているんですけれど、マットさんの目から日本の人たちを見て、どのようなことをやればそれが可能になるのかということをちょっと聞いてみたいです。

●マットさん/行政側は、「これが必要だろう」と決めつけるのではなくて、市民が本当に必要なのはなんだろうと見直したり、too much ということをやめていく、そして対話をするということです。

市民側は自分たちで意識を変えていく。で、自分たちの声を聞かせる、ちゃんと発信したものを聞いてもらえる状態をつくっていくということを、いろんな単位でですね、区画とか町内会とか市とか国とか、市民の声を統制すると言われている行政側が、市民の声を聞くという状態をつくっていく。

で、いろんなことがいろんなところで起こっていますけれど、誰かの意思決定だとか、誰かの発想によってそれらは起こっているわけですよね。なので、今この便利な世の中があるとするならば、それは誰かの思いつきだとか誰かの意思決定によって起こっているのだけれども、必ずしもそこに住んでいる人だったり、それが一番身近なトピックである人の思いつきじゃないというのが問題なんですね。

なので、自分たちの暮らしにインパクトを与えるような意思決定をどんどん自分たちでしていくっていうことが大事だと思います。日本の方々っていうと、国民性が違うのは分かります。若者に関わってほしいんだけれども、というのもすごく聞こえてくるし、やっぱり究極は、自分が暮らすという中で何が可能なんだろうかって自分たちで意識を変えていくっていう、自分たちの手の中に、そういったことを取り戻していくという。で、四井さんはもうそれをされている方ですよね、当事者ですよね。

四井さんの八ヶ岳のお家に行くと、すごくいろいろ自発的にやっていらっしゃることがあって、私もそこから学んでポートランドに持って帰ったりするようなこともたくさんあって、お互いがお互いをインスパイアすることで、自分の取り組みをみんなに共有していくことで、それが他の人の気づきだったり、やる気だったりになる。

コンポストをつくるでもいいし、堆肥をつくるでもいいし、こういった路上に絵を描いちゃうというのでもいいので、何か自分ができることをやって、それがお互い一人ひとりを刺激していくということが大切なんだろうなと思います。

●枝廣さん/ありがとうございます。一番大事なことは、そうですよね。ここに住んでいる人たちが一番影響を受けるわけだから、住んでいる人たちがこういう町にしたいという、それをみんなで出し合って、それを明らかにしていくこと。どこか誰かが外から来て、それをやりなさいではなくて、自分たちがこういう町にしたいからこうしたいっていうことを考えるということかなと思います。

今回のこの場はまさにそのためのものなので、それを行政の方も参加して聞いてくださっているし、行政主導というよりも、住民が大事にしたいものを大事にする、そういう町づくりがきっとできるんじゃないかなと思います。

一度ここで休憩を取って、そのあとみんなで考えながら、またゲストのスピーカーの方々にもご意見いただけたらと思っています。ポートランドから来てくださったマットさんにも大きな拍手をお願いします。

【防災ハンドブックの告知】

●大塚愛さん/一昨年から県議会議員をやっております大塚愛と申します。今年、岡山県が「ももたろうの防災」という防災に関する様々な情報を集めたハンドブックをつくりました。これは県のホームページからもダウンロード、ももたろうの防災で見れますが、著作権フリーのデータとしてつくりました。これを岡山県の市町村だったり、地域の防災組織で活用していただきたいなと思っているものです。

この中には、例えば地震のハザードマップとか浸水のハザードマップとか、県の地図が入っているんですけれど、これを地域でつくっていただく場合はここに地域のハザードマップも入れ込みながら、その地域の被害想定、この地域がどんなリスクがあるかな、そのためにはどんな用意をしたらいいかなというような、様々な情報が集められています。

これが一般編。3つバージョンがありまして、要配慮者編、子供編の3つが出ています。これは去年から県がつくっていく中で、東日本大震災から岡山に避難してきた方々からも意見を聞いて、様々な意見を反映させながら、県と一緒につくってきたものなので、今後いろんな場で、企業でもいいと思うのですが、いろんな場で防災を学んでいこうという日に活用していただけたらと思いまして、お知らせさせていただきました。これをまわしていきますので、よかったら開いてみてください。よろしくお願い致します。ありがとうございます。

【SDGs(持続可能な開発目標)について】

●枝廣さん/残りの時間みんなで考えていこうと思うのですが、このチラシ、くらしのたねまきシンポジウムvol.1、SDGs懇談会、目標11、持続可能な地域社会というふうに書いてあるんですけれど、小さい字なのでご覧になったか分からないのですが。

SDGs、ローマ字3つで分かりにくいかと思いますが、SDGsってなんだかご存知の方どれくらいいらっしゃいますか? 今回このプロセスでまちづくりのビジョンを考えていく時に、SDGsっていうのを一つの枠組みとして使っていきたいので、ちょっとだけその説明をさせてください。

SというのはSustainableのS、持続可能なというのが最初のSです。DはDevelopment、開発とか発展とか、持続可能な開発というのがSD、でGoals複数形なのでsを付けるのですが、目標ですね。これは国連が2015年9月に全世界で決めた持続可能な開発目標というものです。

日本は国連に参加しておりますので、日本もこれをやっていくぞということを約束しています。これは2030年までの世界を考えた時に、ここをちゃんとやっていかないと持続可能な幸せな社会にならないねっていう、そういう分野を17選んでいます。17の目標が国連で決められています。これは途上国も先進国もみんな取り組んでいきましょうという目標です。

なので、17の目標の一つの枠組みとして各国でも取り組んでいくし、各地域でも取り組んでいくし、今、多くの企業がSDG’sの取り組みを始めています。この17というのは、例えば、貧困であるとか、飢餓であるとか、健康であるとか、教育であるとか、もしくは温暖化とか、それから海を守ろうとか、森林を守ろうとか、非常に社会的な面も入っているし、環境の面も入っているし、17ありますからいろいろ目標があります。

そのうちの11番目にまちづくりという目標があります。まちを人々にとって住みやすい、持続可能で例えば温暖化の大雨が来たり、高熱になってもしっかりしたまちにしていきましょうというのが目標11なんですね。今回のプロセスではこの11を解析してやっていきましょうと。

特に温暖化を含め、防災というのがテーマですが、このあと2ヶ月に1回ぐらいこういう会をやっていきたいと思っています。例えば食べ物、どうしたらいいの? とか、水とかエネルギーはどう考えたらいいの? とか、緑についてはどうなの? とか、こういうことを17の目標のそれぞれ、ぜんぶは扱えないのですが、取り上げてやっていきたいと思っています。

なので、ときどきSDGsという話が出るかもしれませんが、これは国連が全世界でやっていこうと決めた目標で、この北長瀬地区でのまちづくりにしろ、私たちも世界の一員なので、それを考えてやっていこうねっていうことで、SDGsというのがちょっと入っています。これを考えながらやっていこうと思っています。